神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

「…え?俺とルイーシュ2人セットで、一つの家じゃないのか?」

「まさか…。住宅は、上級魔導師お一人お一人にそれぞれ提供されます」

そんな、当たり前のことのように。

マジかよ。

俺、この家一人で住むのか?

違う意味で、孤独死しそう。

「必要な家具、家電製品もすべて揃っております」

「更に、それぞれ、10人ずつの使用人もついておりますので…何でも申し付けてください」

新築一戸建て。家具家電、プール、更に使用人付き。

…やべ。現実離れし過ぎて、頭がクラクラしてきた。

目眩が始まった俺に代わって、ルイーシュが言った。

「へぇー。なかなか立派な家ですね」

「お気に召されたようで、何よりです」

「プールとかいう、全く使わない設備までついてるのが最高ですね。じゃ、俺は新しい我が家を見に行くとしましょうか」

「あ、お供致します」

ルイーシュがさっさと、向かいの家に歩き出すと。

ルイーシュの見習い魔導師のエリトール君が、慌ててその後ろをついて行った。

「それじゃ、キュレムさん。また後で」

「…おー…」

…薄情者め。俺を置いていくとは…。

…でも、ここまで立派なものを用意してもらった以上。

今更、「家なんて要らないから!そこらの安アパートで充分だから!」と言うのも、逆に失礼だし。

それに…ルーデュニア聖王国での、魔導師のぞんざいな扱いに嫌気が差して、キルディリア魔王国に亡命した、と説明した手前。

ここは嘘でも、喜んで受け入れるべきなのだろう。

…よし。

「…よし、よし…。じゃあ、入るか…」

「はい。そうしましょう」

ブラマンジュちゃんが、邸宅の門を開いてくれた。

無駄に豪華で、無駄に広い玄関に入ると。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「うぁほぁっ…」

俺が帰宅するのを、玄関先で待ち構えていたメイドが、左右に5人ずつ。

合計10人のメイドさんに、ぺこりと頭を下げて迎えられ。

俺は、思わず奇怪な声を上げてしまった。

…マジ?

聞いたか?今の。

お帰りなさいませ、ご主人様。だって。

「…そういうの、メイド喫茶でしか聞けないと思ってた…」

「はい?」

「行ったことないけど…」

まさか人生で、「お帰りなさいませ、ご主人様」をしてもらえる日が来るとは…。しかも無料で…。

…なんか、現実のこととは思えなくなってきた。

夢でも見てんじゃねぇかな。

長い夢から目を覚ましたら、いつも通り聖魔騎士団魔導隊舎の、自分の部屋の天井を見つめていた、とか。そういうオチじゃない?

そうだったら、どんなに平和だったろうか。

「…なぁ、これって現実だよな?」

「えっ?…は、はい…」

「…」

俺は、無言で自分の手の甲を抓った。

夢なら早く覚めてくれよ、と強く願いながら、ぎゅむっ、と手の甲の皮膚を抓むと。

「いでででで!」

思った以上に強く抓り過ぎて、痛かった。

「だ、大丈夫ですかっ?何をなさってるんです?」

慌てて、俺を止めに来るブラマンジュちゃん。

畜生…めっちゃ痛かった。

それでも、やはり夢から覚めることはない。

…ってことは、やっぱりこれ…夢じゃないんだ。現実なんだ。

正直、冥界の深海の底にいた時の方が、まだ現実感があったな。