神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

分かっていると思うが、これは俺の本心ではない。

ナツキ様の身勝手には、内心呆れてはいたものの。

手痛いしっぺ返しを食らったナツキ様に、「ざまぁw」と笑ってやりたい気持ちも、勿論ある。当然ある。

だけど、それはナツキ様に向けた嘲笑であって、アーリヤット皇国の国民達には関係ない。

ましてや…ナツキ様を殺して、アーリヤット皇国を強引に、征服してしまうなんて。

完全にやり過ぎだし、勝手過ぎる。

だから、イシュメル女王のやり方には、反対している。

本心では、俺はそう思っている。

だけど…今は、俺とルイーシュは、イシュメル女王に信用してもらわなければならない。

その為に、この本心は隠しておかなければならないのだ。

「超魔導師至上国家であるキルディリア魔王国が、元アーリヤット皇国に領土を拡大したこと…。大変誇らしく思っています」

「ほう?…しかしルーデュニア聖王国の女王は、再三、我が国のアーリヤット侵攻に反対し、戦争をやめるよう、しつこく口を出してきたものじゃが」

「…それは…」

「それだけではなく、聖賢者殿はルーデュニア聖王国の聖魔騎士団…。ルーデュニアの魔導師軍から、わざわざ使いを寄越してきたぞ」

あぁ、うん。

シュニィと無闇のことな。

「頭の堅い使者殿じゃったな。我が国に寝返るよう勧めたが、取り付く島もなく撥ねつけおったわ」

だろうな。

俺だって、スパイ任務がなかったら、そうしてるっての。

誰が好き好んで…こんな「生きづらい」国に住むものか。

魔導師だろうと。魔導師じゃなかろうと。

「…それで、おぬしらは何じゃ?」

「俺達は…」

「聞くところによると、おぬしらも聖魔騎士団の魔導師なのじゃろう?」

「その通りです」

「ということは…。聖賢者殿の子飼いの魔導師、という訳じゃ」

イシュメル女王は、すっ、と目を細めた。

聖賢者…シルナ・エインリーの手下が。

遥々キルディリア魔王国まで来て、何の用だ?と。

そう聞きたいんだろう。きっと。

「おぬしがここに来たのは、聖賢者殿の指示か。今更、アーリヤット領の支配をやめろ、と指図でもしに来たか?」

「…いえ、それは…」

「それとも何か。間者として、キルディリア魔王国の情勢を探りにでも来たか?」

…ドンピシャじゃん。

表情を変えなかった俺、超偉い。

俺もイシュメル女王みたいに、口元を隠す扇が欲しいよ。

「どうなのじゃ。答えてみよ」

「…。…はー…」

俺は、大きく息を吐いた。

…礼儀正しく、かつ、周到に、回りくどく。

イシュメル女王を惑わせ、騙し、上手く取り入ろう…と。

この一週間、ずっとそう考えていたけれど。

やっぱりそういうの、性に合わねぇわ。

スパイとしては落第点。どころか、失格だけど。

俺は、俺のやり方を貫かせてもらおう。

「…自分とルイーシュは、このキルディリア魔王国に亡命しに来たんだよ」

俺はとうとう、敬語を使うのもやめ。

逆に、挑むような視線をイシュメル女王に向けた。

えぇい。…こうなりゃ、なるようになれ。