神殺しのクロノスタシス7〜後編〜

「疲れてるって言うかな…。怒ってるんだよ、俺は…」

「怒ってる?…何に?」

「…この国だよ」

なんつーか、もう…全てが腹立つ。

この豪華で派手な客室、これすら腹立たしい。

御殿様扱いされていることさえ、気に入らない。

「信じられるか?あの酷い差別…」

非魔導師のことを、「人間の欠陥品」とまで抜かしたんだぞ。

「欠陥品なんて言う方が欠陥品だ!」って、小さい頃におばあちゃんに習わなかったのか?

俺は習わなかった。

「確かに、ルーデュニア聖王国では信じられない差別ですね」

「だろ?」

「ですが、あれが、この国では必要なことだったんでしょう」

「…必要なこと?」

ルイーシュ。お前は俺と違って、えらく淡々としてるな。

「思うところがないのか?お前は…」

「ありますよ?ありますけど…。でも、酷い体制の国なんて、他にもあるでしょう?ジャマ王国とか…」

「あー…。うん、それは…」

ジャマ王国…。元暗殺者組の、令月とすぐりの生まれた国だよな?

確かに、あの国も酷い。

人身売買が横行して、平気で子供を暗殺者に仕立て上げるような国なんだから。

「キルディリアの民は、ずっと昔、大陸から追放された魔導師達が集まって、立ち上げた国だって言ってたじゃないですか」

「あぁ…。そうらしいな」

「国籍も人種もバラバラ。ただ魔導師であるという共通点しかない人々が、この荒れた海に囲まれた不毛の島国で、どうやって生きていくか…。…この国の人々は、非魔導師に対する憎しみと偏見によってまとまり、一つの国になったんでしょう」

ルイーシュの意見に、俺はハッとした。

…そういうことか。

「彼らは偏見や、差別によって、もといた国を追い出された…。だから、そんな彼らを一つにまとめるには、偏見と差別を利用するのが、一番手っ取り早かったんでしょう」

「…」

人を利用する為には、負の感情を利用するのが一番簡単だからな。

不毛の島に流された魔導師達は、自らの身を守る為に、団結する必要があった。

そして、生まれも人種も、年齢も違う。そんな彼らの唯一の共通点は…非魔導師に対する憎しみだった。

だからこそ、この国の魔導師達は今でも、非魔導師に偏見を抱き、差別している。

かつて、遠い先祖達がそうされたように。

今度は今を生きる彼らが、非魔導師を差別するのだ。

…元はと言えば、非魔導師が魔導師を差別したのが悪い。

でも、だからって。

自分がされて嫌だったことを、人様にやり返すようじゃ…。

それが「お偉い魔導師様」のやることか?

「…人を傷つけて良い理由にはならんだろ」

「そうですね。…だけど、このキルディリア魔王国は、きっとそうやって発展してきたんです。魔導師の、魔導師による魔導師の為の国…。その大前提を崩してしまったら、それはもうキルディリアではないんでしょう」

「……ったく。頭の堅い連中がよ…」

いつまで、そうやって昔の価値観を引き摺るつもりなんだか。

憎しみの、負の連鎖を延々と続けて…そんなやり方が正しいなんて、俺にはとても思えないが。