人間恐怖症の私は、氷と月のような君と共に





『ごっ、ごめんなさっ……ご、ごめん……』

こんな変な人に敬語を話すなんて変な感じしかしないっ……。


『擬人化って……何が……?』

『言うと思うか? この俺が』


……うーん……知ってた。


『名前は?』

『あるわけない』

うーん……じゃあ、あだ名をつけろってことかなっ……。

この性格からして、冷たくて、俺様で……あっ!



(れい)

『はっ?』

うん、我ながら良い。

『決めた! 貴方は今日から冷!』

『は? 勝手に決めんなよ』

『いいの! とーっても不便でしょ? なかったら』

しかも、私ばっかり困惑してるのがやだ! なんて言ったらキレられそう……。

まだ現実は受け止められてない。はっ、もし幽霊だったらどうしよう……。

『私だけしか見れない……の?』

『そうみたいだな。そんな人はいないだろうと思ってたらこの様だ』

『じゃあ、触れもしない……よね?』

こくりと冷が頷く。これが、私と冷の出会いだった。

冷は擬人化していて、本当は人じゃないからか、人の姿でも色んな魔法……的なのを使えた。

ワープしたりとか……ほんと、前はなんだったんだろう……っ。


冷と出会っても、私は変わらなかった。

事故、事件に巻き込まれまくり、たまに冷が庇ってくれた。


その度に……申し訳なかった。

……夏休みが、終わった時。

学校へ登校する時も、隣に冷がいてくれた。

そして、その日だった。


近くに、人が来た。

たったそれだけなのに、私に何かがずしっとのしかかってきた。


——それが積み重なっていき……私は給食の時に、ストレスで倒れた。


お母さんは——仕事で来れないと言っていたらしい。

病院で……私は、ストレス障害だと診断された。


確かに、人が近付いてくると血の感触などが思い出されるのは、トラウマだと言っていいのかもしれない。

『お母様に……』

お母さんに連絡しようとした先生を慌てて止めた。

『私が言うので、大丈夫です!』

私は……クラスメイトに事情を説明して、気遣ってもらうことに、反対はしなかった。

でも、クラスメイトじゃない人にバレるのは、嫌だった。

『……明日、みんなに言いますから』

私は先生にそう言って、帰ることを許された。

学園の門のところで待っていた冷と帰る時も、私はこっそりポケットに入っていた診断結果表をぎゅっと握りしめた。

……私、多分……あのトラウマで、だよね?

じゃあ……もう人には近づかないでおかないと。

いつ人が死ぬかわからないんだから……いつ、血だらけで死ぬかわからないんだから……。

……じゃあ、私……次また事故事件に巻き込まれたら、どうなるんだろう。近づけなくて、死んでく人を見ているんだろうか。

……そんなの、無理。
私は冷に、腹をくくって言った。

こんな私を、菜々は認めてくれた。

今から、私は……菜々が認めてくれた私を、消す。

『ねえ冷、私のこの……事故事件に巻き込まれる体質、どうにかしてくれる?』