人間恐怖症の私は、氷と月のような君と共に


私は、認めたくなかった。

菜々は……私のせいで、死んだんだ。

ほんとうに……この日私は、どうしたら良かったんだろう。

自分の部屋に、夏休みをいいことに引きこもって、部屋から出なかった。

……一週間ほどかかって、私は外へ出れるようになった。



傷が、治ったわけじゃない。菜々が、この私の引きこもり生活を望むだろうかと考えてこその選択だった。

留守番中に、玄関のチャイムが鳴った。

——ガチャ

『はい……?』

『蒼空ちゃん……?』

『え……菜々の……』


菜々の両親が私の家に来ていた。

『ごめんなさい、菜々の部屋を見ていたら、蒼空ちゃんの家への地図があって……あと、これを渡そうと思ってて』

差し出されたのは、茶封筒。

そして【蒼空へ】と書かれていた。

ドクンっと、心臓が跳ねた。

菜々の、字。

手紙……?

ありがとうございますと菜々の両親に頭を下げて、部屋に入る。


【蒼空へ


あと少しで夏祭りだね。きっとこれを読んでる時は夏祭りが終わっていると思うけど。

蒼空、誕生日おめでとう。8月上旬。おめでとう】

ハッと息を呑む。覚えててくれてたなんて。つまり、これは……バースデーカード?

でも、菜々からの遺言でもあるかもしれない。

【私は3月だから、まだまだだなぁ。一歳下になっちゃったね。

あまり言う機会がなかったから、今言うね。

蒼空、あの時、私のこと助けてくれて、ありがとう。あの時あの瞬間に、蒼空がいなかったら、今この手紙も、書いてる私もいなかったと思う。

一生の借りだよ。いつか返したいな。

だから、もし何か蒼空に危ないことがあったなら、私は絶対に蒼空を助けると思うよ。その時は、何があっても泣かないでね?

もちろん、私だってずっと蒼空とずっと一緒にいたいよ。

でも、命の恩人が死ぬところなんて、見たくないし、プライドが許さないもん。

だから、その時は憎まないでください。


なんか、暗くなっちゃったな。

とりあえず、誕生日おめでとう。私たちは何があっても親友だよ。


何があったとしても人を助けて、思いやれる他己中なところが魅力だよ。

どんな試練が舞い降りてきても、その人助けだけはやめないでください。

でも、もうちょっと自分のことも大事にできるといいね(笑)。

じゃあ、またね。


菜々より】





……菜々。

菜々が認めてくれた私を、大切にしたい。

そうだ。菜々が応援してくれてる。

じゃあ、菜々のことも抱えて、みんなを助けなくちゃ。


……できれば、事故に遭う人が少なければいいんだけど。

でも、そんな願いとは裏腹に、私は何度も事故に遭遇した。

目の前で、血溜まりの中で死んでいく人。

目の前で、車に全てを持って行かれていく人。

目の前で、殺人犯に殺されてる人もいた。

流石に私は抵抗できないから逃げたけど……。

目の前で生き延びて、目の前で死んでいく。

普通、人は死と背中合わせで、急に自分と、自分と親しい人の死で、死と隣り合わせになるはずなのに。

私だけ、死と向かい合わせなのは、どうして?


……まだ覚えてる。

私の手を伝う血の感触と、目の前で冷たくなっていく人を。

また、助けられなかった。

死んでいく人を見ていると、手が震え出してきた。

体が勝手に震え出して、サッと距離を一メートルほどとる。

……怖い。

人に触ると、あの血の感触が蘇る。

人に近づくと、冷たくなっていく人が思い出される。




……とにかく、怖かった。