……病院へ着いた。
病院で、急遽救急手術室へ運びたい人がいっぱいいたらしく、別の病院でも手術をしているらしい。
新聞やニュースなどが取り上げているらしい。私にも話を聞きたいと言われたけど、また今度と言っておいた。
だって、正気でいられない。
目の前で親友が重傷を負って、しかも自分だけはっきり意識がしてて、助かった。こんなの……正気でいる方が無理だ。
わたわたと30代くらいの女性と男性が血相を変えてやってきて、私は全てを悟った。
……だって、顔のパーツが菜々に似ていたから。あまりにも。
『菜々の……ご両親、ですか……?』
『はい……』
『あなたは……伊江、蒼空ちゃん?』
『はい……』
我ながら、情けなくて、力のない返事。
でも、菜々の両親もだいぶ取り乱していて、やっぱり一緒だなとぼんやりする頭で感じた。
『やっぱり……。菜々から聞いていたのよ……毎回、蒼空ちゃんと遊ぶ時、とっても楽しそうに準備していたから……』
……そうなんだ。
菜々……そうなら、これからも遊ぼうよ。
私なんて、もう良いから、助けなくて、よかったのに……。
『事故って、聞いて……ごめんなさい……あの、状況を聞いても、良いですか……?』
私の傷口を抉らないようにしているのか、お母さんが申し訳なさそうに聞いてきた。
『……急に、大型トラックが突っ込んできて……そのまま、ですね……』
急に涙腺が崩壊してきた。
『……ごめんな、さい……っ』
溢れてくる涙を、必死に止めた。
菜々を危ない目に遭わせた、私が泣く権利はない……。
『私を……私をっ、庇ったからっ……菜々がっ……ごめんなっ……さいっ……。私だけ……意識がっ、あって……私だけだずがって……ごめんな、ざいっ……』
涙声で……堪えても、堪えても、溢れてくる。
まだ、菜々は生きているのに。
私も、何を言ってるんだろう。
『蒼空ちゃん』
優しい声に導かれて……ゆっくり顔を上げる。
『菜々が……毎日言っていたよ。もう、口癖だったかな』
『……』
『毎日、毎日、「こうやっていられるのも蒼空のお陰だ、蒼空がいなかったら……」って』
菜々、が……?
『菜々を、前に……助けてくれて、ありがとう』
どうして、両親も……そんなことを、言うんだろう。
『蒼空ちゃんに会ったら、感謝しようって、決めてたんだ』
『信じよう。蒼空ちゃんは、自分を責めないで』
少しだけ、救われた。そして、私も願った。
——けれど、菜々は私たちの願いとは裏腹に、息絶えた。



