人間恐怖症の私は、氷と月のような君と共に



でも、多分ニュースになるよね……そこでわかるかな。いや、死者とか出たと思うし、映さないか……。

……だけど、不思議な気分だ。一緒にいた人が、事故で死んだとか。

病院なら、目を開けた方がいいか……起きてるんだし。

ほら、白い天井が目の前に……っ、え?


そこには、大惨事が広がっていた。


家の近くの通学路の公園に、血だらけで倒れふせる人が溢れて、辺り一面を埋め尽くしている。

何人かの上に重なっている人もいた。

全員、ぴくりとも動かない。間違いなく、これは致命傷だ。

こんなところでも、免疫がついてる私は叫ばなかった。

何度も助けようとして、目の前で死んでいく人を見た。冷淡とか言われるかもしれないけど、ちゃんと傷付いてる。血が怖いとかは、ない。


『菜々……どうしよう。救急車、呼ぼうか……?』


どうしてこの状態で、私が病院にいるとか勘違いしてる時に、菜々は救急車を呼ばなかったんだろう。

スマホを出そうと持ち上げようとした右腕が、あれ、重い。










——まさか。



ドクっと動悸がした。


嘘。嘘だって思いたい。いや、まだわからない……。

視界の右端。黒いものが見える。また、心臓がドクっと言った。

そーっとその黒いものを見る。



『……っ』


な、な……。

菜々が、私の肩に腕を乗せて、もたれかかっていた。


……血だらけで。


致命傷だ。菜々の周りにも、だいぶ血溜まりがある。

どうし、よう。

菜々の腕から血が垂れてきて、私の手のひらまで垂れてくる。


さらっとしてるわけでもなく、どろっともしてない。その感触に、ゾッとした。

『菜々……!』


落ち着け。

とにかく、救急車、を……‼︎


震える声で救急車をとにかくいっぱい! と呼んだ。

見れば見るほど、その状況は悲惨だった。

あの綿飴の屋台に突っ込んだ大型トラックは変形していて、私はなんだかんだ言って視力が良いためトラックの中が少し見えたけれど、運転手さんも意識がないらしくぴくりともしていなかった。

……事故現場って、こんなに悲惨なんだ。

夏祭りでここら辺の人は実家に帰ったりしているらしく、誰も野次馬はいない。ある意味、良いのかもしれないけど。

……菜々。


大丈夫だよ、私が前に助けたみたいに、大丈夫、助かるよ、菜々……。


私はハッとして、一番重症そうでずっと血が垂れている左腕に浴衣の帯を巻き付けて止血した。


……トラックを運転していた人は、わざとなのかな……。

私たちに当たった後、右側を通って行った。もちろん右側の人たちも重症だけど、左側の人も倒れているから……ブレーキを踏み間違えたにしては、突っ込んできて終わりーじゃなかったから、故意なのかもしれない。

……だとしたら、許せないな……。

菜々……。

菜々を見るたびに心臓がぎゅっと締まる気がして、理性を失いそうになる。


待って……私。落ち着いて……。

菜々だって、こんな取り乱す私を見たら、呆れる……。

それに、菜々は衝撃のショックで、意識を失ってる、だけだから……多分。いや、絶対。


……救急車のサイレンの音が、近い。