……夏祭り当日。
『わあっ……可愛い!』
朝顔の模様の、可愛い浴衣。
そんな浴衣で、夏祭りが開かれる公園へと急ぐ。
『あれ、蒼空⁉︎』
『あ……菜々⁉︎』
菜々も、金魚の浴衣を着ていた。
それからは、2人で浴衣を褒めあって、綿飴を食べて、りんご飴も食べて、飴食べてばっかだねって、笑って。
もう、一生続いて欲しかった。
そんなことを願った私を、懲らしめようとしたのか。神様は。
菜々が急に公園の外の道路を見つめて動かなくなった。
『菜々?』
ぼうっとしているのかな……? UFOでもあるのかな? いや、菜々はそういう非現実的な物、非科学的な物を全て「そんなのない! 宇宙人⁉︎ いないに決まってる!」って言っていたから、菜々はそうだったらプライドが傷つけられて叫ぶ。そして、いち早く私に教えてくれるだろう。私は、ないとかあるとかわからない人間だから。
私は、菜々の視線を辿って、ハッと息を呑んだ。
もう、遅かった。
私は、もっと早く気付いていたら、全て違ったかもしれないのに。
もう、私が振り向いた時には。
大型トラックが、公園の“車が入って来ないようにする棒”を倒しながら、夏祭り中の公園へと猛スピードで入ってきた。
『菜々!』
とにかく、菜々を助けようと必死だった。
前、助けたみたいに。菜々を……。
全て、スローモーションだった。
人がいっぱいいて、人で埋まっている公園内を、容赦なくどんどん突き抜けてくる。
人の倒れる音。少しずつぎゅうぎゅう詰めだったのが解放されていく。
でもそれは、いい意味じゃない。
菜々へ、手を伸ばした。
でも、伸ばした先の菜々は。
——遠かった。
気付いたら、菜々に抱きしめられていた。
菜々が車を背にして、ぎゅっと抱きしめてくる。
やだ、やめて。私が、助けるんだから……。
そう思いながらも、菜々を抱きしめ返そうと腕を持ち上げる。
その瞬間に、体に衝撃が走って、耳を押さえたくなるような急ブレーキの音と、右側を何かが猛スピードで通り過ぎていくような空気が感じられた。
それとほとんど同時に、菜々の声が聞こえたんだ。
『蒼空……あの時助けてくれて、ありがとう』
やだ。お別れなんかじゃない。だって、酷いけど、周りに人だっていたんだ。菜々だけが衝撃を受けたわけじゃない。
私も衝撃を受けたんだから、私も死にたいと思った。
謎に、記憶だけがはっきりとしていた。
菜々と私に、猛スピードの大型トラックが突っ込んできて、衝撃が走って……。
ああ、私今、病院とかかな。救急車で搬送されてる?
菜々は? 絶対生きてるよね? だって、話してたよ? ありがとうって。だから、流石に大丈夫。
あの時、目は開けてなかったけど、どうなってたんだろう。



