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「……姉ちゃん?何してるの?電気もつけないで」

どれくらいわたしは、スマホを手にしたまま座っていたんだろう。
いつの間にかリビングも外も暗くなっていたことに気付かず、ヒロが帰ってきたのにも気付かなかった。

うつむく視界が明るくなって、ヒロがこちらに歩いてきたのが分かる。

「留守電、聞いたけど……さ」

しゃがんだヒロは、何かを言おうとした。でもわたしの持つスマホや、雑に散らばったスマホを見て察したのかもしれない。

「充電は、出来たの?」
「うん……」

なんて力ない返事。顔を上げる力もないや。
ヒロはひとつ、スマホを手に取った。……桃李くんだ。

「……なるほどね」

ヒロも電源ボタンを押してくれたんだろうな。それで今のわたしの気持ちも状況も理解してくれた。静かに机へと桃李くんを置いたヒロは、散らばったままのスマホくんたちも机に置くと、キッチンへ向かったのが分かった。冷蔵庫を開ける音がしたから。

「ほら、腫れると大変でしょ」

そう言って、タオルでくるんだ保冷剤を差し出してくれた。

「……ありがと」


なんだかんだ優しい弟だなぁ、ヒロは。
その優しさが今はすごく胸に染みて、まぶたにあてたタオルに涙が染み込んでいった。