氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

「なんだかなあ。お前たち、仲がいいのか悪いのか……」

ベンチに座った晴也先生は、腕組みをして私と晶を見比べる。
晶は隣に立つ私をチラリと横目で見てから口を開いた。

「俺は結のこと、かっこいいって本気で思ってます。けど、そう言ったらなんでか結は、プンプン怒り出すんです」
「はあ? なによそれ。私が変だ、みたいに言わないでよ」
「だってそうだろ? ジャンプかっこいいなって言われたら、普通は『そうかな? えへへ、ありがと』とか言うもんじゃないのか?」
「キモッ! 晶、どういう趣味してんの? 残念でした。私、そういうキャラじゃないんで。かわいい子が好きなら、他の女の子に声かければ?」
「俺は別にナンパしてるんじゃねえの!」

バチバチと睨み合う私と晶に、晴也先生が手を伸ばして遮った。

「はい、もう終わり! ったく、なんだろな、このふたりは」

呆れたように呟いてから、晴也先生はため息をつく。

「結、いつも誰とも話さないお前が珍しくおしゃべりしてたから、先生は嬉しかったんだぞ? 仲良くしたらどうだ?」
「別に晶とは仲良くなりたくないです」

ツンと顎を上げてそう返事ををすると、晴也先生は肩を落とした。

「はあ、やれやれ。えっと、君。晶くんだっけ? ここ最近、よく遊びに来てくれるね。おうちは近いの?」
「はい。お母さんが新しいお父さんと結婚したから、近所に引っ越してきました」
「そうか。それでね、できればお父さんとお母さんに伝えてほしいんだ。毎回リンクの滑走券を買うより、ひと月6500円のフリーパスを買った方がお得だって」
「えっ、そんなのあるんですか?」
「ああ。晶くんにはこれからもスケートを好きでいてほしいから、よかったらフリーパスで時間がある時に滑りに来てくれると嬉しい。それと」

そこまで言ってから、晴也先生はちょっと口ごもった。

「うーん、これはできればご両親に直接お話ししたいんだけど」
「なんですか?」
「うん、あのさ。スケート、習ってみたらいいんじゃないかと思って」

ええ!?と、晶だけでなく私も驚いた。

「もちろん、無理に誘うつもりはないよ。だけど晶くんはいつも、レッスン生が練習してるのを熱心に見てるだろ? 時々真似してみたりして」
「えっ、見られてたんですか?」

晶は恥ずかしそうに視線を落とす。

「褒めてるんだ。転ぶのを怖がらずにチャレンジするって、実はなかなか難しいんだよ。スケートを好きになってくれたのかなって、先生も嬉しくてね。でもそれならなおさら、きちんと基礎を習った方がいいと思う。でないとケガをしてしまうから」

私もさっきのことを思い出した。
ろくにスケーティングもできてないのに、アクセルジャンプを真似して飛ぶなんて危険すぎる。

「どうかな? まずはお試しで1回だけでも。教室のパンフレットを渡すから、おうちに帰ってよく考えてみて」
「……はい」

晶は戸惑ったように頷いていた。