氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

ピッコロの澄んだ音がリンクに響く。
呼び起こされる遠い日の記憶。
私たちがまだ子どもだった頃。
ただ無邪気に桜の花びらを追いかけた。

ねえ、晶。
あの時は幸せだったね。
でも今、私はあの時よりももっともっと幸せだよ。

会えなくなった時の寂しさ、心細さ。
つらくて悲しかった日々を乗り超えて、またあなたに会えたから。
そして今、ふたりの大切な桜の木を、一緒にリンクに咲かせられるから。

私たち、心いっぱいに色んな想いを抱えてるよね。
言葉では言い尽くせない。
だから全身全霊でスケートに想いを込めて滑る。

2年前は私ひとりで。
今は晶と一緒にふたりで。
このリンク中に花を咲かせよう。
ひとりの時よりも、もっともっと大きな桜を。
たくさんの花びらが舞い、美しく咲き誇る桜の木を。

桜吹雪のスローループ。
花びらをつかむような高いリフト。
ステップシークエンスでは見つめ合って微笑んだ。

晶、ありがとう。
やっぱり私は、この曲で晶に感謝を伝えたい。

いつもそばにいてくれてありがとう。
今、こうして一緒に滑ってくれてありがとう。
私に幸せをくれて、本当にありがとう。

晶の手によって、私は高く宙に舞い上がる。
しっかりと受け留めた晶は、優しく笑いかけてくれた。

音がふっと止む一瞬、私たちも動きを止める。
そこから一気にクライマックスへと盛り上がった。
切なく胸に迫るメロディーに、私の目にも涙がにじむ。
幸せすぎて心が震えた。

最後のペアスピンを終えて、晶は私を抱き寄せる。
見上げた私の目から涙がこぼれ落ちた。

「結……」

呟いた晶が、ギュッと私を抱きしめる。
シャワーのように拍手が降り注ぐ中、私は晶の温もりに包まれていた。