全日本ジュニア選手権大会 ペア予選会。
それが私たちの実戦デビューとなった。

「まずは試合の感覚をつかむこと。ここからがスタートだ。今日は失敗を恐れずにのびのび楽しんでこい」
「はい」

晴也先生の言葉に、私と晶はしっかりと頷く。
狭き門のシングルとは違って、ペアはよほどのことがない限り全日本に進めると言われている。
だから今回は、とにかくいつもの自分たちの演技をすることに集中した。

「新海フィギュアスケーティングクラブ所属、木谷 結さん、関口 晶さん。木谷・関口組」

名前がコールされただけで私は感激した。

(ひとりじゃないんだ!)

スタートポジションに向かいながら、晶が聞いてくる。

「ん? どうした、結。にこにこして」
「だってふたり一緒に名前を呼ばれたから、嬉しくて」
「ああ、そうだな。俺たちのデビュー戦だ。派手に魅せつけてやろうじゃない」
「ふふっ、うん!」

不敵な笑みを浮かべて私たちは最初のポーズを取る。
不安なんてみじんも感じない。
だって晶がそばにいる。
一緒に戦ってくれる。
こんなにもワクワクと胸が高鳴る試合は初めてだった。

ジャン!と鋭い音で曲が始まり、私たちは一瞬で音楽の世界に入り込む。
まずはミラースケーティングで向かい合って円を描き、そこから寄り添って一気にスピードを上げた。

サイド・バイ・サイドでトリプルルッツとトリプルトウループのコンビネーションジャンプを決める。
わあっ!と歓声が上がった。

まだまだこんなもんじゃない。
私と晶は互いに挑むように見つめ合い、リンクを疾走する。

晶がいれば、私はいつも120%の実力を出せる。
晶が私の限界を超えた力を引き出してくれるから。
どこまでも高みへと行ける。
晶とふたりなら。

練習で何度も滑ったプログラム。
だけど試合で滑るのは、言葉で言い表せないほど興奮が高まり気持ちよかった。

「結、いくぞ。ワンツー、トウ、ホップ!」

晶のかけ声が、私をさらに奮い立たせる。

絶対に落とさない。
俺を信じて飛べ。

晶の言葉がいつも私を支えてくれる。

私たちは、これがデビュー戦とは思えないほど生き生きと『火の鳥』を舞った。