氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

順調に上達していく日々の中。
その日もいつものように氷上でダブルツイストの練習をしていた。

「いちにのトウ、ホップ!」

晶の声に合わせて飛び上がり、そのまま投げ上げられて空中で2回転する。
晶は私がどんなに体勢を崩しても、必ずキャッチしてくれた。

私が晶の腕を押し出すのと同時に晶が私を投げ上げる。
タイミングが合うと瞬発力がうまく作用し、高く飛ぶことができた。

「今の、すごくはまって気持ちよく飛べた。もう1回やろ」

つかんだ感覚を確かめたくて、私は何度もダブルツイストを飛ぶ。

「結、そろそろやめよう」

晶がそう言っても、私はもう1回とせがんだ。

「じゃあラスト1本な。これ飛んだら今日はもうツイストの練習は終わりだ」

身体の疲れを心配して、晶がそう言う。
わかったと頷いて、私は最後の1本を飛んだ。

いつものように晶の両腕をグッと押して飛び上がった時だった。
左手の力がうまく入らず、軸がぶれたまま空中に投げ上げられる。

(ダメだ!)

バランスを崩し、どっちが天井でどっちが氷かもわからない。
硬い氷の上に落ちるのを覚悟して、ギュッと身体をこわばらせた時だった。

「結!」

晶の声と、ザーッと氷の上を何かが滑る音がした。

(……え?)

身構えていた身体の衝撃はなく、私は固く閉じていた目を恐る恐る開ける。

「晶!?」

私は氷上に倒れ込んだ晶にしっかりと抱き留められていた。

「晶! 大丈夫?」

急いで晶を抱き起す。

「ああ、平気。結は? ケガしてないか?」
「うん、どこもなんともないよ」
「よかった」

そう言って笑顔をみせる晶に、私は涙が込み上げてきた。

「ごめんね、私をかばってこんな……」
「なんで謝んだよ。キャッチするのは俺の役目だ」
「でも、晶はもうやめようって言ったのに、私がまだ飛ぶって言ったから……」

すると晶は「結」と真剣に口を開いた。

「練習中の責任は全部俺が取る。結の腕の疲れに気づけなかったのは俺の責任だ。だから結は何も悪くない」
「晶……」
「それから、結。俺はなにがあっても絶対に結を落とさない。だからどんな時も、俺を信じて飛べ」

力強くそう言う晶に、私の心がスッと軽くなる。

「うん、わかった。どんな時も晶を信じて飛ぶ」
「ああ」

ようやく笑顔になる私に、晶も優しく微笑んだ。