氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

翌日も朝から会場に向かう。
アイスダンスとペアだけでなく、男女シングルのショートプログラムも行われ、私たちは終始かじりつくように観戦した。

「ジュニアのシングルのレベル、高いな。技術はシニアでも充分通用する」
「ほんとに。それに若い子の方がトリプルアクセルや4回転も飛びやすそうだね」
「うん。身体も軽いし、頭で考えすぎないしな。俺らがこれから1から始めるのとはハードルが違う。若いっていいよなあ」

すると真紀先生と晴也先生が笑い出した。

「ふたりとも、なに言ってんの! あなたたちだって充分若いじゃない」
「そうだぞ。お前たちがそんなこと言ってたら、俺と真紀なんてどうすりゃいいんだよ」
「そうよ。シニア通り越してジジババになっちゃう」
「あはは! いいな、ジジババ選手権で優勝目指すか」

そんなことを言いながら笑い合っていると、昨日のペア今泉・川崎組のフリースケーティングが始まった。
リフトもツイストもスムーズで、レベルの差をまざまざと感じずにはいられない。
だけど私たちだって、来年はこの舞台で戦ってみせる、と決意を新たにした。

最後に女子シングルのショートプログラムが始まった。

「結、去年はこの場にいたんだな」

晶が隣でポツリと呟く。

「こんな緊迫した雰囲気の中、よくひとりで立てたな。すごいよ、結」
「あの時は試合の勝ち負けよりも、ただ私の想いをスケートで伝えたいって、そのことに集中してたから」

私がそう言うと、晶は少し口を閉ざして考え込む。

「ありがとう、結。どんな気持ちで結が挑んでくれたのか、ようやく今になって実感できた。結のこと、心から尊敬する。そしてずっとずっと感謝し続ける。最初に俺をスケートの世界に誘ってくれて、一度離れてもまた呼び戻してくれて、本当にありがとう」
「私こそ、晶がいてくれたから今もスケートを続けられてるんだよ。ありがとう、晶」
「俺たちって、ふたりでひとつだな」
「うん、そうだね。だけどリンクでは3倍も4倍も強くなれる。晶と一緒なら」
「ああ、俺もだ」

ふふっと顔を見合わせて笑い合う。

たくさんの刺激を受け、またがんばろうと気持ちを新たにしながら会場をあとにする。
帰りの新幹線の中では、晶と肩を寄せ合って眠った。
温かさと心地よさ、幸せと喜びを身体中で感じながら。