氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

「今日は陸上でリフトの導入やってみましょ」

ある日。
ジャージに着替えた私と晶は、真紀先生と晴也先生に連れられて外に出る。

「建物の中だと、天井に手をぶつけたりするから気をつけてね。結ちゃんが落っこちないように私と晴也が補助するから、安心して」

そう言われると、なんだか身構えてしまう。

「簡単なものから徐々に慣らしていきましょう。じゃあ、晶くんは両手で結ちゃんの腰を後ろから持って、いちにのさんで真上に上げてみて。結ちゃんは両手を上で丸く、アン・オーのポジションで」
「わかりました」

晶の前に背を向けて立つと、晶は後ろから私の腰を両手でつかんだ。

「ひゃー! ちょっと晶、くすぐったい!」
「なんだよ、仕方ないだろ? ガマンしろ」
「無理!」
「結、クネクネするなってば」

はあ……、と晴也先生がため息をつく。

「こりゃ前途多難だな」
「まあまあ、ふたりともウブでかわいいじゃない。普段から手つないだりしてないの?」

真紀先生の言葉に、私も晶も赤くなってうつむく。

「やだ! なんかキュンとするー!」
「おい、真紀。おもしろがってるだろ?」
「だって甘酸っぱいんだもん。いいわねー、青春って感じ。ふふっ」

なにやら違う方に期待する真紀先生に、私は気持ちを入れ替えて表情を引きしめ、もう一度晶の前に立つ。

「いくぞ、結。いちにのさん!」

晶の声に合わせて、身体の芯を意識しながら指先から爪先まで真っ直ぐ保つ。

「うん! きれいきれい。晶くんも余裕あるわね」

晶が私をストンと地上に下ろすと、真紀先生は次の指示を出す。

「スロージャンプは知ってるでしょ? 女子がジャンプするのを男子が投げて補助するの。そのイメージで、スリージャンプしてみましょ」

まずは私がひとりで何度かスリージャンプをしてから、晶がタイミングを合わせて私の腰を少し浮かせた。

「そうそう、イメージはそんな感じ」

そのあとも陸上で練習してから、リンクに下りてやってみた。
氷の上では陸上と違って助走があるけれど、何度か繰り返すうちに感覚がつかめてきた。
うまく晶に身体を預けると、余計な力が抜けてスーッとランディングが後ろにきれいに流れる。

「いいわねー。どんどん高くしていっていいわよ」

真紀先生に言われて、私は高く飛び上がる。
晶もちょうどいい具合に私の身体を浮かせてくれた。

「なんかこれ、すっごく楽しい!」

私はだんだん目を輝かせて何度もジャンプを繰り返す。
晶も、真剣に私と息を合わせてくれた。

スロージャンプは楽しくて、あっという間に上達した。