「すっげー!」
目を丸くして声をかけてきたのは、確か晶が8歳の時だったと思う。
私と同じ、小学3年生の春。
新海アイスアリーナで晴也先生のレッスンを受けたあと、残ってジャンプの練習をしていた私に、晶は履きなれないスケート靴でヨロヨロと近づいてきた。
「それ、どうやってやるの?」
「……別に。普通」
思えばその時から私は可愛げがなかった。
「普通!? どこがだよ。めっちゃすげーよ」
「ダブルサルコウなんて、みんな飛べる」
「サル子? 誰だよ、それ」
「は? 何言ってんの」
もう話しかけるなとばかりに、私は冷たく顔をそむけて滑り出す。
一般客の間を縫って軌道を見つけると、ジャンプの助走に入った。
左足でターンしてからインサイドエッジに乗り、右足を後ろに引いてつま先をついて飛び上がる。
空中で左に2回転すると、両手を広げて着氷した。
するとまたしても大きな声が上がる。
「すっげーな! サル子」
聞き捨てならないセリフに、私はザッと晶の前でT字ストップした。
「あのねえ! 私の名前、サル子じゃないし、今のジャンプもサルコウじゃない。フリップ!」
「は? フィリップ? お前、日本人じゃないのか?」
「はあー? 意味わかんない」
その時、他のレッスン生を見ていた晴也先生がやってきた。
「結? どうかしたのか?」
「別に。なんでもないです」
そう言って再び滑り始めると、後ろからまた大きな声がした。
「結っていうのか。俺、晶。よろしくなー、結!」
ギョッとしたものの、これ以上返事はしないことにした。
(まったくもう、変な子)
それが私と晶の出会いだった。
目を丸くして声をかけてきたのは、確か晶が8歳の時だったと思う。
私と同じ、小学3年生の春。
新海アイスアリーナで晴也先生のレッスンを受けたあと、残ってジャンプの練習をしていた私に、晶は履きなれないスケート靴でヨロヨロと近づいてきた。
「それ、どうやってやるの?」
「……別に。普通」
思えばその時から私は可愛げがなかった。
「普通!? どこがだよ。めっちゃすげーよ」
「ダブルサルコウなんて、みんな飛べる」
「サル子? 誰だよ、それ」
「は? 何言ってんの」
もう話しかけるなとばかりに、私は冷たく顔をそむけて滑り出す。
一般客の間を縫って軌道を見つけると、ジャンプの助走に入った。
左足でターンしてからインサイドエッジに乗り、右足を後ろに引いてつま先をついて飛び上がる。
空中で左に2回転すると、両手を広げて着氷した。
するとまたしても大きな声が上がる。
「すっげーな! サル子」
聞き捨てならないセリフに、私はザッと晶の前でT字ストップした。
「あのねえ! 私の名前、サル子じゃないし、今のジャンプもサルコウじゃない。フリップ!」
「は? フィリップ? お前、日本人じゃないのか?」
「はあー? 意味わかんない」
その時、他のレッスン生を見ていた晴也先生がやってきた。
「結? どうかしたのか?」
「別に。なんでもないです」
そう言って再び滑り始めると、後ろからまた大きな声がした。
「結っていうのか。俺、晶。よろしくなー、結!」
ギョッとしたものの、これ以上返事はしないことにした。
(まったくもう、変な子)
それが私と晶の出会いだった。



