氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

次の日の早朝練習でも、私は晶と一緒に真紀先生から指示を受ける。

「これからはいつもふたりで、ユニゾンを意識しながら滑ってね。単純に並んで同じことをするだけじゃダメ。ふたりが一体感を持ってバランスよく調和を保たなければいけないの」
「はい」

いつもの基礎のルーティーンも、私と晶はお互いを意識しながら並んで滑る。
そのあと、真紀先生が作ってくれた簡単なプログラムを、曲に合わせて滑ってみた。

まるで影のように全く同じ動きをするシャドースケーティング。
鏡のように対象的に同じ動きをするミラースケーティング。
ステップやスピン、ソロジャンプを近い距離で同時に行うサイド・バイ・サイド。

「ふたりの距離を少しずつ近づけていってね。近すぎると危険だけど、離れすぎると評価されないから」
「はい!」

どれもが新鮮でおもしろく、私は夢中になった。

(ひとりで滑るより、ふたりの方が断然楽しい!)

どうやらそれは真紀先生にも伝わったらしい。

「結ちゃん、いい笑顔ねー」

そんなふうに言われたのは初めてだった。
他の女の子たちのように、明るく笑顔で滑るなんて今までできなかったのに。

「どう? 実際にやってみて」

練習後に真紀先生に聞かれて、私は晶の顔を見上げる。

「晶はどうだった?」
「ん? 楽しかった。けど結の方が楽しそうだったな」
「そうかな」
「うん。あんなに楽しそうに、にっこにこ滑ってる結、初めてみた」
「え、ちょっと。なんか恥ずかしい……」

思わず両手で頬を押さえると、真紀先生がふふっと笑った。

「そんな結ちゃんを見て、晶くんもにこにこしてたわよ。いいペアね。これからも練習続けてみない?」
「えっと、でも。ペアとしては、まだまだやらなきゃいけないこと、たくさんありますよね?」
「そうね。試合に出るには、リフトやツイストも習得しなければいけない。だけどみんな1から学ぶのよ。あなたたちにできないわけはない。それに」

真紀先生は言葉を止めて、隣に立つ晴也先生をチラリと見る。

「結ちゃんと晶くん、相性がバッチリよ。ね? 晴也」
「ああ、そうだな。ペアはそこが重要なんだ。シングルのトップ選手同士が組めば、いいペアスケーターになれるかと言ったらそうじゃない。だけどおまえたちなら、シングルトップレベルで相性のいいペアになれると思う」

真紀先生はともかく、晴也先生までもがそんなふうに言ってくれるなんて、と私は晶と顔を見合わせた。

「俺はこのまま続けてみたい。結は?」
「私も。できるところまでやってみたい」
「よし、やろう」

そうして私と晶は、ペアを組むことを決めた。
この時はまだ、晴也先生の野望に気づかずに……。