氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

「ペアでは、お互いの一体感と信頼関係がなにより大事なの。まずは手をつないで滑ることに慣れましょう。そのあとは前を向いたままふたりでリズムやタイミングを合わせたり、距離感を保ったままスピードも調整できるように」

翌日、早速真紀先生の指導を受けながら、私と晶はペアの練習をやってみる。
基礎練習のルーティーンも、息を揃えて滑った。

「次は晶くんが結ちゃんの背中を支えて滑ってみて。押すんじゃなくて、支える感覚で。結ちゃんは力を抜いてほどよく晶くんに身体を預けてね」
「はい」

背中を支えられ、あー、楽ちんと思っていると、晶に「こら、結!」と怒られる。

「完全に俺にもたれてるだろ?」
「だって楽なんだもん」
「自力で滑れ!」
「はいはい」

そのあとは、並んで同時にジャンプやスピンをする時の声かけの練習。

「ターンや踏み切り、スピンのポジションチェンジやフィニッシュを合わせるために合図を出すの。あなたたちがやりやすい声のかけ方を見つけてね。最初はスリーターンからのダブルフリップでやってみましょうか」
「はい。じゃあ結、とりあえず俺が声かけてみる。せーのでターン始めて、いちにのトウでジャンプな」

晶に言われて、私は眉間にシワを寄せる。

「トオッ!て、なんかダサくない? 戦隊ヒーローみたい。だったらまだシュワッチ! の方がいいよ」
「はあー!? なに言ってんだ。トウって、つま先のトウに決まってるだろ」
「ああ、そっか。あはは!」

呆れて思い切り顔をしかめる晶を促し、ふたりでリンクを一周する。

「よし、じゃあいくぞ、結」
「はーい」
「せーの! いちにのさん、トウ!」

晶の声に合わせてターンをし、つま先をついて飛び上がる。
2回転してから両手を広げて右足で後ろに流れた。

「わあ、きれいきれい!」

真紀先生が拍手する。
晴也先生が撮ってくれた動画を見返すと、晶と私が影のように同じ動きをしていた。

「おおー、気持ちいいな。でももう少し合わせられそう」
「確かに。晶、もっかいやろ」
「おう!」

私たちは何度もジャンプを繰り返す。
だんだん息が合い、揃えようとしなくても揃うようになってきた。

「次はスピンやってみて。そうね、キャメルからのシット、最後アップライトでフィニッシュ。それぞれのタイミングで晶くんが声かけてみて」
「はい」

ふたりで後ろ向きに円を描いて準備する。

「いくぞ、結。せーの!」

晶のかけ声に合わせて左足を踏み込み、まずはキャメルスピン。
上半身を氷と水平に倒しつつ右足を後方に伸ばし、Tの字でスピンする。

「次、シット行くぞ。チェンジ!」

タイミングを合わせて、今度はシットスピンのポジションに入る。
私は晶の回転を見ながら速度を調節した。

「アップライト、せーの!」

立ち上がり、両手を胸の前でコンパクトにクロスしながら回る。

「開くぞ。せーの、フィニッシュ!」

ラストは両手を開いて、右足で後ろに流れた。

「わあ、なんか楽しい! 動きが揃うと気持ちいいね」

私がそう言うと晶も「そうだな」と頷く。
真紀先生も嬉しそうに笑った。

「うんうん、いい感じよ! じゃあ明日の早朝貸し切りで、シャドースケーティングやサイド・バイ・サイドのジャンプとスピンを曲に合わせてやってみましょう。簡単なプログラム作っておくわね」
「はい! 楽しみー」

その日のうちに、私はすっかりペアの魅力に取りつかれていた。