「真紀先生、なんのことですか?」
「あのね、あなたたち、ペアやってみない?」
「…………は?」
晶も私も、ハトが豆鉄砲食ったみたいに変な声で固まる。
「ペア? ってまさか、あのペアですか?」
「そう、あのペア!」
「男の人が女の人を投げたり回したり飛ばしたりする、あのペア?」
「そう、そのペア!」
いやいやいやー!と、私たちは必死に手を振って否定する。
「無理ですよ、あんなアクロバティックなスケート」
「どうして? さっきデススパイラルもできてたじゃない。それにさすが子どもの頃から一緒に練習してきた仲ね、息ぴったり! あなたたち、基本のスケーティングもそっくりだし、ジャンプは踏み切りから空中姿勢、ランディングまでコピーみたいに揃ってる。結ちゃんはずっと男子と一緒に滑ってたから、女子の中ではぶっち切りのスピードが出せるしジャンプもダイナミック。それに晶くん、この一年でかなり筋肉ついたよね?」
「それは、まあ。氷に乗れない分、せっせと筋トレに励んでましたから」
確かに晶は久しぶりに会うと、ひと回りもふた回りも体格が大きくなっていた。
「結ちゃんのこと、持ち上げられる筋力もあると思うんだ。ここまでシンクロした動きができるんだもん。ペアに挑戦しないともったいない! ね? 練習だけでもちょこっとやってみない?」
「いや、でも。ペアの練習なんて、なにをするのかさっぱりわからないし……」
「大丈夫! かつての全日本優勝ペアが直々に指導するから」
「ええ!? どこにそんな人がいるんですか?」
「ここに」
「…………は?」
私と晶は、2回目のハトになった。
「え、ここって? まさか真紀先生と、晴也先生!?」
「そう、そのまさかでーす!」
「ええー!?」
すると晴也先生が、やれやれとため息をつく。
「お前たち、仮にも俺はヘッドコーチだぞ? コーチの素性も知らないのか?」
「いや、その。バッジテスト7級で、全日本ジュニアチャンピオンってことは知ってますけど……」
「そのあと! シニアに上がってなかなか結果が出なくて、真紀とペア組んだんだ。まだ競技人口が少ない……、いや、はっきり言ってもう一組のペアとしか戦わない時代でさ。だから全日本チャンピオンにもなれた」
「そうだったんですか。ペアのことはあんまり注目してなくて……」
そう言うと、真紀先生が懐かしそうな目をした。
「ちょこっとテレビで取材されたりもしたんだけどなあ。知らない? 佐藤・水沢組」
「知らないです、すみません」
「じゃあ、春巻きペアは?」
「あっ! 知ってます。なんで春巻きなのかは知らないけど」
「それ、私たちのこと。ほんとは『まき・はるペア』なのに、なぜだか春巻きペアって呼び方が浸透しちゃってね」
「そうだったんですね! わあ、有名人じゃないですか」
「今ごろー?」
真紀先生はおかしそうに声を上げて笑う。
「よーし! 早速明日からちょっとずつ練習しましょ。どうするかはそのあと決めればいいから。ね?」
「はい……」
戸惑いつつ、私は晶と顔を見合わせて頷いた。
「あのね、あなたたち、ペアやってみない?」
「…………は?」
晶も私も、ハトが豆鉄砲食ったみたいに変な声で固まる。
「ペア? ってまさか、あのペアですか?」
「そう、あのペア!」
「男の人が女の人を投げたり回したり飛ばしたりする、あのペア?」
「そう、そのペア!」
いやいやいやー!と、私たちは必死に手を振って否定する。
「無理ですよ、あんなアクロバティックなスケート」
「どうして? さっきデススパイラルもできてたじゃない。それにさすが子どもの頃から一緒に練習してきた仲ね、息ぴったり! あなたたち、基本のスケーティングもそっくりだし、ジャンプは踏み切りから空中姿勢、ランディングまでコピーみたいに揃ってる。結ちゃんはずっと男子と一緒に滑ってたから、女子の中ではぶっち切りのスピードが出せるしジャンプもダイナミック。それに晶くん、この一年でかなり筋肉ついたよね?」
「それは、まあ。氷に乗れない分、せっせと筋トレに励んでましたから」
確かに晶は久しぶりに会うと、ひと回りもふた回りも体格が大きくなっていた。
「結ちゃんのこと、持ち上げられる筋力もあると思うんだ。ここまでシンクロした動きができるんだもん。ペアに挑戦しないともったいない! ね? 練習だけでもちょこっとやってみない?」
「いや、でも。ペアの練習なんて、なにをするのかさっぱりわからないし……」
「大丈夫! かつての全日本優勝ペアが直々に指導するから」
「ええ!? どこにそんな人がいるんですか?」
「ここに」
「…………は?」
私と晶は、2回目のハトになった。
「え、ここって? まさか真紀先生と、晴也先生!?」
「そう、そのまさかでーす!」
「ええー!?」
すると晴也先生が、やれやれとため息をつく。
「お前たち、仮にも俺はヘッドコーチだぞ? コーチの素性も知らないのか?」
「いや、その。バッジテスト7級で、全日本ジュニアチャンピオンってことは知ってますけど……」
「そのあと! シニアに上がってなかなか結果が出なくて、真紀とペア組んだんだ。まだ競技人口が少ない……、いや、はっきり言ってもう一組のペアとしか戦わない時代でさ。だから全日本チャンピオンにもなれた」
「そうだったんですか。ペアのことはあんまり注目してなくて……」
そう言うと、真紀先生が懐かしそうな目をした。
「ちょこっとテレビで取材されたりもしたんだけどなあ。知らない? 佐藤・水沢組」
「知らないです、すみません」
「じゃあ、春巻きペアは?」
「あっ! 知ってます。なんで春巻きなのかは知らないけど」
「それ、私たちのこと。ほんとは『まき・はるペア』なのに、なぜだか春巻きペアって呼び方が浸透しちゃってね」
「そうだったんですね! わあ、有名人じゃないですか」
「今ごろー?」
真紀先生はおかしそうに声を上げて笑う。
「よーし! 早速明日からちょっとずつ練習しましょ。どうするかはそのあと決めればいいから。ね?」
「はい……」
戸惑いつつ、私は晶と顔を見合わせて頷いた。



