氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

「……嘘」

ポツリと私は呟く。
あれほど会いたいと願っていたのに、いざ目の前に現れるとなにも言えなくなった。

「……晶?」
「うん」

私と同じように真新しい制服を着て、身長もグッと伸びた晶が優しく笑う。
私の記憶の中の晶より、ずっとずっと大人びていた。

「ほんとに、晶? なんだか別人みたい」
「結こそ見違えた。似合ってる、その制服」
「あ、うん。晶も……って待って! その制服、もしかして県内トップの高校じゃ……」

そう言うと晶は照れたように頬をぽりぽりと掻いた。

「なんかスケートやってないと暇でさ。勉強するしかなくて、そしたら受かっちゃった。はは……。結こそ、その学校かなりのトップ校じゃない」
「じゃあ晶、やっぱりずっとスケートできなかったの?」
「ああ。丸一年、氷に乗ってない」
「そっか……」

晶の壮絶な日々を想像して胸が痛む。
言いたいことがたくさんありすぎて、なにから話せばいいのかわからない。

「結、めちゃくちゃ感動した。結の全日本」
「えっ、観てくれたの?」
「もちろん。今でも目に焼きついてる。心を鷲づかみされたみたいだった。胸が張り裂けそうになって、気づいたらボロボロ泣いてた。この桜も、結とすごしたあの頃の幸せも、全部全部思い出した。だから決めたんだ。絶対ここに戻るって。必死で勉強して、高校に合格してみせる。そうすればまたここで暮らせるから」

晶は今までのことを全て話してくれた。
お父さんの暴力からお母さんを守るために、母子シェルターに逃げた日のこと。
そこからひっそりと関西の田舎に引っ越したこと。
テレビで私のスケートを観て、また戻りたいとお母さんに話したこと。
お母さんは弁護士を通してお父さんと離婚を成立させ、お父さんはこの4月から海外赴任になり家も売却したこと。

「ちょうど昨日引っ越して来たんだ。ここから自転車で20分くらいのアパートに」
「じゃあ、またスケートできるの?」
「それをこれから晴也先生に相談しようと思って来た。できれば館長に頼んで、ここでアルバイトさせてもらいたい。そのバイト代でまかなえるなら、またレッスン受けさせてもらいたいんだ」
「うん、うん! きっと大丈夫だよ。晴也先生も真紀先生も館長も、絶対喜んでくれる」
「なんか、ちょっと緊張するな。久しぶりすぎて。スケートもどこまで腕が落ちてるかわからない。滑れんのかな、俺」

私は晶の腕をグッとつかんで歩き出す。

「あったりまえじゃない。あの晶だよ? すぐにビュンビュン滑れるよ。早く行こう!」

グイグイと晶を引っ張ってリンクに戻った。