氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

「結、もう起きないと」

朝の7時。
お母さんがいつものように起こしにきた。
でも私は布団を頭からかぶったまま動かない。
シャッとカーテンを開ける音がした。

「今日、始業式でしょ? 遅れるわよ」

奪われそうになった布団に、私はガシッとしがみつく。

「結?」
「行かない。お腹痛い」
「またそれ? 仮病もいい加減に……」
「痛いって言ってんの!」

怒って叫んだつもりが、泣きそうな声で自分でも驚く。

「……わかった。先生に連絡する」

お母さんは諦めを通り越して、呆れたように出て行った。

(……ほんとに痛いって言ってんのに)

ううん、痛いのはお腹だけじゃない。
胸が痛い、頭も痛い。
身体中がギシギシと痛むような気がする。
もうイヤだ、無理!って、悲鳴を上げている気がする。

始業式の今日休んだら、きっと明日も行けないだろうな。
クラス発表で何組になったのかわからないから。
そしたらあさっても、しあさっても……。
でも仕方ない。

(だって、無理なものは無理なんだもん)

口ぐせを心の中で繰り返す。
晶がいない毎日を過ごす意味すら、もうわからなくなっていた。