氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

衣装に着替えた私は、真紀先生にメイクをしてもらう。
髪はポニーテールにして、毛先もふわっと巻いてもらった。

「うん! かわいい、結ちゃん。晶くんが惚れちゃうよー」
「え、真紀先生。なに言ってるんですか」
「だってほんとにかわいいんだもん。結ちゃん、内面からにじみ出るオーラがあるよね。思わず目を奪われるっていうのかな。何かを秘めてる感じがして、目が離せなくなるの。神秘的な美しさ」
「真紀先生、試合前だからってそんなに持ち上げてくれなくても大丈夫ですよ?」
「本心で言ってるの! 素直に受け取ってよ。ね?」

私は照れて、小さく頷く。

最終グループの直前練習の時間になった。
さすがに上位6人だけあって、みんなうまい。
飛ぶような速さで私の横をすり抜け、軽々とジャンプを決めていく。

わっ!と大きな拍手と歓声が上がった。
どうやら世界ジュニアチャンピオンの子が、トリプルアクセルを成功させたらしい。
他の子が焦ったように、負けじとジャンプを次々飛ぶ。

そんな中、私は妙に落ち着いていた。
桜の木の下で、晶とジャンプの練習をしたことを思い出す。

「うわー! 結、桜の妖精みたいだったぞ。なんかめっちゃきれいだった」

花びらが舞って、晶は私にそう言ったよね?
今日もこのリンクで、桜の花を咲かせたい。
そしたら、また褒めてくれる?

私の中でしっかりとイメージが固まり、出番になるとリンクサイドの晴也先生と真紀先生と手をつないだ。

「結、思い切り行け。晶に全部伝えてこい」
「はい。行ってきます!」

勢いよく、私は光に照らされたリンクの中央に向かった。