氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

木谷(きたに)結さん。新海フィギュアスケーティングクラブ」

名前がコールされ、私は晴也先生と真紀先生に送り出されてスタートのポジションに着いた。
美しくきれいな音色で曲が始まる。

ゆったりとどこかノスタルジックな曲に身を任せて、私はリンクを舞う。
大事にしたいのはスケーティング。

真紀先生に言われたのだ。
「結ちゃんは、女子とは思えないほどスケーティングが伸びやか。あっという間にトップスピードまで行くし、そのまま速度を落とさずにジャンプする。だから下りたあともスーッと流れてきれいなの。他の選手よりもリンクを周る回数も多いし、大きくリンクを使えてる。これは結ちゃんの大きな武器よ」

トリプルアクセルや4回転が飛べなくても、スケーティングなら自信がある。
そこに表現を加えて、見る人を惹きつける。
フィギュアスケートはジャンプ合戦じゃない。
なにを観せたいか、どう魅せたいか。
観てくれる人の心に訴えて、なにかを残したい。

私は私の世界を造り出す。
そこにジャンプやスピンを落とし込みたい。

桜の美しさ、花びらが舞うさまを表現したい。
伝わるように、伝える。

切なく心に迫るメロディーに乗せて、私は全身全霊で演じた。

ーー東日本フィギュアスケートジュニア選手権大会 第4位ーー

私はついに全日本フィギュアスケートジュニア選手権大会の切符をつかんだ。