氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

うつむいて最初のポーズを取る。
静かに曲が始まった。

『死の舞踏』
私は深呼吸をしてイメージの中に入り込む。
右足で氷を蹴り、スーッと滑り出した。

何かが始まる予感。
惹き込まれる雰囲気を醸し出す。

そこから一気にスピードを上げた。
風を切って疾走し、アクセルの軌道に入る。

落ち着いて、丁寧に。
曲をよく聞いてから一気に高く飛び上がった。

ジャン!という音にはめて、きれいに着氷する。
「よし!」という晴也先生の声が聞こえた。

あとは波に乗って思い切り滑るだけだ。
曲調に合わせて鋭くキレのある動きで、でも雑にならず伸びやかなスケーティングで。

大丈夫。
何度も練習した動きを身体が覚えている。
そこに気持ちを乗せるんだ。

晶みたいにかっこよく滑りたい。
この曲のジンクスなんて、私が打ち壊してみせる。

(晶、見ててね)

後半になると、息が上がる。
だけど身体の奥底から何かの力が湧いてくるのを感じた。

(晶……)

8歳からずっと一緒に練習してきた。
疲れてスピードが落ちると、「結、がんば!」と励ましてくれた。

そんな晶が、私の中に今もいる。
そう、だからこんなにもがんばれるんだ。
晶が私を後押ししてくれている。

「結、いけるぞ! 飛べ!」

晶の声を聞きながら私は最後のジャンプ、トリプルルッツとトリプルトウループのコンビネーションジャンプを飛んだ。

「結、すげー!」

そんな声が聞こえた気がして、思わずふっと笑みをもらす。
ラストのフライングキャメルスピンも、思い切り高く飛び上がった。

一気に駆け抜けたショートプログラム。
最後のポーズでほっと息をつくと、大きな拍手に包まれた。

(晶……)

いないはずのその姿を、客席に探す。
いなくてもいい。
私は客席に向かって、笑顔でお礼の挨拶をした。