氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

「結、全日本の予選を考えると8月のバッジテストがデッドラインだ。そこで必ず6級に合格するぞ」
「はい」

次の日、晴也先生と相談しながらスケジュールと目標を決めた。

現在のバッジテスト6級の主なエレメンツは、なんと言ってもダブルアクセル。
それからダブルジャンプのコンビネーションやフライングキャメルやフライングシットのスピン。
そしてショートプログラムとフリースケーティングだ。

「ダブルはアクセル以外は問題ない。スピンとステップも充分できてる。ダブルアクセルをしっかり固めよう。それからプログラムを急いで作るぞ。振り付けはどうする?」

私は少し思案してから答えた。

「真紀先生にお願いしたいです。今回は表現力をしっかり身につけたいので」

このプログラムで全日本まで戦うことになる。
晶に届けたいスケート、晶に見せたい表現は、これまでの私のプログラムでは無理だ。
真紀先生に美しく女性らしい振り付けをお願いしたかった。

「わかった、真紀先生に頼もう。曲は決めてあるのか?」
「はい。これでいかせてください」

私は夕べのうちに決めた曲をメモして、先生に渡す。

ショート …… サン=サーンス『死の舞踏』
フリー …… 福田洋介『さくらのうた』

『死の舞踏』は、晶が最後に滑っていたプログラムだ。
キリッとした顔つきで、鋭くかっこよく滑る晶によく合っていた。

「結もこの曲で滑ったらかっこいいだろうな」

そう言って笑っていた晶を思い出す。
この曲で勝負したかった。
晶の分まで。

そしてフリーの『さくらのうた』
晶と見た桜、特別なふたりの時間を表現したい。
言葉にできない幸せや感謝の気持ちを、この曲に乗せて晶に伝えるんだ。
そう決めていた。

だけど曲名を見た晴也先生は、少し難しい顔をする。

「『死の舞踏』か……。結、この曲のジンクスは気にならないのか?」

フィギュアスケートでは、『死の舞踏』を使うと翌シーズンは不運に見舞われるというジンクスがある。
有名な世界選手にも当てはまり、奇しくも晶にも当てはまってしまった。

「ジンクスなんて、覆してみせます。晶の分も、私が背負って」

きっぱりそう告げると、先生は驚いたように目を見開いてからニヤッと笑う。

「いいな、うん。この曲でいこう。今の結にぴったりだと思う」
「はい」

早速真紀先生に話をしにいくと、「もちろん! 結ちゃんの魅力を最大限に引き出せるプログラムを考えてみせるわ」と笑ってくれた。
プログラムができるまでは、晴也先生にしっかりとダブルアクセルを見てもらう。
3ヶ月休んでいたけど、身体は思ったより早く感覚を取り戻した。
なにより、目標もなくただぼんやりと練習していた以前とは違う。

(晶、見ててね)

私は心の中にグッと想いを閉じ込めながら、その日に向かってひたすら練習を重ねた。