氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

「結ちゃん!」

リンクに行くと、真紀先生が驚いたように駆け寄って来た。

「心配してたのよ。元気だった?」
「はい。真紀先生、晴也先生はいますか?」
「いるわよ、すぐに呼んでくるわね」
「急がなくていいです。私、ウォーミングアップしてるので」
「えっ……」
「先に着替えて来ますね」

すると真紀先生は、満面の笑みで頷いた。

「わかった。身体、ゆっくりほぐしてね」
「はい」

更衣室で着替えると、ウォーミングアップエリアにヨガマットを広げてストレッチを始める。
真紀先生の言葉通り、ゆっくりほぐさないといけないほど身体はガチガチだった。

「結」

いつもの声で呼ばれて、私は顔を上げる。
晴也先生が近づいて来た。

「今日、滑ってみるか?」
「はい、ちょっとだけ」
「わかった。無理するなよ?」
「はい。それと先生、あとで少しお話しさせてもらえますか?」
「もちろん。いつでも声かけてくれ」
「ありがとうございます」

晴也先生は頬をゆるめて頷くと、リンクへと戻って行く。
私も念入りにストレッチしてからスケート靴を履いて、リンクに向かった。

(懐かしい、この匂い。ひんやりした空気も)

リンクサイドでしばらく気持ちを整えてから、エッジカバーを外してゆっくりと氷の上に下りる。

(こんなにドキドキするなんて、初心者みたい)

心の中でクスッと笑ってから、軽く流して滑ってみた。
徐々に感覚が戻ってくる。
身構えたのは最初だけで、身体が勝手に動き出した。

いつものルーティーンを滑り出すと、頭の中がクリアになって感覚が研ぎ澄まされる。

(やっぱりこの時間が好き。私にはスケートが必要なんだ)

そのことを再認識した。