「結、いったいいつになったら起きるの?」

毎朝起こしにくるお母さんは、とがめるように繰り返す。

「お腹痛い、お腹痛いって、中3にもなってどうしてそんな見え透いた嘘つくのよ」

嘘じゃないのに。
そう言っても無駄だから、私はもうなにも言わない。

「担任の先生、毎日電話くれるのよ? クラスのみんなも、結のこと待ってるって」

それこそ嘘だ。
私が来ても来なくても、誰もなんとも思ってないはず。

「もう1ヶ月経つのよ。いい? ゴールデンウィークが終わったら学校行きなさい」

勝手に決めないでほしい。
行けるならとっくに行ってる。
私だって、好きで毎日お母さんの小言を聞いてるわけじゃないのに。

「スケートもよ。氷に乗らないまま1ヶ月なんて、どれだけ大きな影響があるか考えなさい」

何度言ったらわかってくれるのだろう。
スケートはやめたって。

バタンとドアが閉まり、トントンと階段を下りる足音が遠ざかると、ようやく静かになった部屋で私はモソモソと布団から顔を出した。

「……嘘つき」

ポツリと呟く。

「晶の嘘つき。桜の花びら、毎年俺がキャッチして結にやるって言ったのに。来年も再来年も、約束するって言ってたのに、嘘つき。突然なにも言わずにいなくなるなんて、嘘つき。私にはいつも笑ってたのに……。晶の嘘つき!」

ガバッと布団をかぶり直し、声を押し殺して泣く。

そんな日々が続いた。