ロッカーの中から荷物を全て取り出していると、晶が驚いたように近づいて来た。

「結? なにしてる?」
「見てわかんない? 荷物まとめてんの」
「なんで?」
「やめるから、スケート。じゃあね」

一刻も早く立ち去りたくて、私はファスナーを開けたままのスポーツバッグを手に晶の横をすり抜ける。

「結! 待てって!」

追いかけてくる晶を振り切って外へ出る。
だけどさすがは男子だ。
あっという間に追いついて腕をつかまれた。

「離して! 痛いってば」
「結こそはなせ!」
「はあ? なに言ってんのよ」
「ちゃんと気持ちを話せ! 俺にだけはちゃんと」

晶は私の両腕をつかんで、顔を覗き込んできた。

「結。俺は結がスケートやめるのを止めたいんじゃない。つらそうな結の、ほんとの気持ちを聞きたいだけだ」
「……別につらくない」
「じゃあはっきり言え。スケートなんかだいっきらい。だからやめるんだって、笑って言え」
「そんなの……」
「言えないのか?」
「言えるわよ! スケートなんかだいっきらい! だからやめてやる。もう二度と滑らないから、靴だっていらない。こんなの!」

ファスナーの開いたスポーツバッグからスケート靴を取り出し、大きく振りかざして地面に叩きつけようとする。
だけどそんなこと、できっこなかった。

私はスケート靴を胸に抱えると、声を上げて泣き出した。
そのまま地面にしゃがみ込む。

泣き続ける私の背中を、晶は黙ってさすってくれた。