「えっ! 結、今なんて?」
「だから、スケートやめます」

翌日、リンクで晴也先生にきっぱりそう言うと、先生は言葉を失ってから「ちょっと」と私をリンクサイドの片隅につれて行く。

「結、なにがあった? もしかして、お母さんになにか言われたのか?」

私は唇を引き結んだまま下を向いていた。

「先生、電話でお母さんにうまく伝えたつもりだったんだけど。お母さんは納得されてなかったのか?」
「……先生のせいじゃありません」
「じゃあなんだ? 6級を受けない理由を問い詰められたのか?」

そんな単純な理由じゃないけど、仕方なく頷いた。

「そうか……。結、スケートをやっていれば色んなことがある。ましてや結はまだ10歳だ。大人には理解してもらえない気持ちを抱えたりもする。先生はそれでいいと思ってるんだ。結が受けたくないなら6級は受けなくてもいいし、理由も聞かない。だから結、スケートは続けてみないか? 結はスケートが嫌いになってやめると言い出したのではないと先生は思う。試合も出なくていい。ただ結が好きなスケートを続けてほしい、それだけだ」

晴也先生の口調は優しくて、私は泣きそうになる。
だけど、胸に抱えた大きな黒いかたまりは、そう簡単にはなくならない。

「もう、無理なんです。考えたくない、逃げ出したい。だからスケートをやめるしかないんです」

そう言うと、口を開こうとする先生にぺこりと頭を下げ、私は一気に駆け出した。