氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

なんとなく気まずい雰囲気のまま、私たちは10歳になった。
晶は4級を難なく合格すると、その2ヶ月後には5級もパスした。

(もう私なんかが教えることなんて、なにもない)

練習メニューもルーティーンも、晶は全部覚えている。
それに身長が一気に伸びて、声も低くなった。

私も思春期の気持ちの変化で、ますます晶と距離を置くようになる。
スケートにも身が入らなくなっていた。

「結、ちょっと」

ある日の練習後、晴也先生に呼ばれてサブリンクの隅のベンチに並んで座る。

「実は、お母さんに聞かれたんだ。結はいつバッジテスト6級を受ける予定なのかって」
「お母さんが?」

うちではスケートの話をしないから、お母さんがそんなことを先生に聞いていたなんて知らなかった。

「結、6級はまだ受けたくないってずっと言い続けてるだろ? 先生も無理強いするつもりはないから、わかったって毎回答えてるけど、気になってたんだ。なにか理由があるのか?」

私はうつむいて考え込む。
自分の気持ちをうまく伝えられる自信がない。

「ごめんなさい、はっきり言えなくて。でもイヤなものはイヤなんです。6級は受けたくない」
「……そうか。わかった、お母さんにはうまく話しておく。だけど、結。悩みごとがあれば、先生にはいつでも相談してくれ。いいな?」
「はい」

晴也先生が立ち去っても、私はしばらく動けなかった。