氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】

リンクに戻るとスケート靴に履き替え、氷に下りる。
レッスン中の他の先生たちに「おはようございます」と挨拶してから、晴也先生の練習メニューを始めた。

「とりあえず同じように真似しながらついて来て。細かいところはあとで説明するから」
「うん、わかった」

晶に頷くと、私は大きなストロークでゆっくりと滑り出す。
エッジのインサイドとアウトサイドをしっかり使い分けて、ターンやクロスも加えていく。
地味な基礎練習に見えるけれど、私はこのルーティーンが好きだった。
気持ちが落ち着くし、頭の中がすっきりする。
スピードに身を任せると、風になったような気分になれた。

(いけない。晶がいるんだった)

置いてけぼりにしてしまったかも、と振り返ると、すぐ後ろにピタリとついて来ていてびっくりする。

「結、これ楽しいな」
「え、うん」

ニッと白い歯を見せて笑う晶は本当に楽しそうで、私はさらに驚いた。

「ずいぶん余裕だね」
「そうか? 結の後ろ滑ってると、なんか自分がうまくなった気がする。結、めっちゃきれいに滑るな」

そんなにストレートに言われたら、なんて答えていいのかわからない。

「じゃあ、もうちょっとスピード上げてもいい?」
「おう! 結の本気を見せてくれ」
「なに、それ」

呆れてから、私は一気にスピードを上げた。
いつも通り手加減せずに、自分のトップスピードで滑っていく。
それなのに、またしても晶はピタリとついて来た。

(え、嘘でしょ?)

私は内心焦り始める。
難しいターンを入れても、エッジワークを深くしても、どうやっても晶はついて来る。
しかもガリガリとトウが引っかかる音もしない。
見事な足さばきと、美しく伸びがあるスケーティングだった。

(信じられない、スケート始めてまだ数ヶ月なのに。重心を置くポイントも身体の向きも、もうコツをつかんでるんだ)

きっと晶は、このターンの名前もまだ知らないだろう。
知らないのにできている。

ひと通りいつものルーティーンを終えても、晶は疲れも見せずにケロッとした様子だった。

「結、晶!」

晴也先生に呼ばれてふたりで向かう。

「どうだった?」

聞かれて晶は元気よく答えた。

「めっちゃ楽しかったです」
「はは! そうか。それはよかった。結は?」

え……、と私は戸惑った。

「どうだった? 晶と滑ってみて」
「それは、まあ。驚きました」

ぽろっと本音をもらすと、晴也先生はニヤッと笑う。

「だろ? いやー、いいコンビだ。晶、しばらくはずっと結について練習しろ。結、陸上トレーニングも含めて晶に教えてやってくれ」

はい!と答える晶の隣で、私は小さく返事をした。