◆時点は終章二部及び【ε】の後になります。
ルーラとアメルの結婚式♡ 果たして誓いのキスは出来るのか!?

「──では……誓いの口づけを」
厳かな雰囲気の中、落ち着いた口調でそう述べた老齢な神父に促され、僕は隣に立つルーラへと身体を向けた。
彼女もまた一足遅れで僕を正面に合わせ、ヴェールを後ろへ上げられたために顕わになった深いブルーグリーンの瞳は、少し潤んでこちらを見上げている。
周りには何十もの人達が僕らを見守っているのに、何の音すらしない。見下ろす僕の眼はおどおどとしていないだろうか。こんな状況で陸上では初となる記念すべきキスをしろだなんて、船乗りになるより難しく感じずにはいられない……。
やがて小刻みに震えそうな両拳を、一度ギュッと握り締めた。何処か自分の物とは思えずにいる見えざる力により、純白の細やかなシルクで包まれた彼女の華奢な肩へ、何とか両手を置いてみせた。
「……」
ルーラはいつになく僕を真っ直ぐ見つめていて、此処に誰もいないとしたら、その瞳に吸い込まれてしまいそうな気分だった。
いや、沢山の親族縁者がそんな僕達を見つめているのだ、こんなに戸惑っている場合ではない。
僕は意を決して彼女の唇に近付こうと顔をゆっくりと寄せたが、彼女の視線はいつまでも僕を捉えていて、伏せられることすらなかった。
「あ、あの……ルーラ、目、瞑って」
あと一歩というところで、こっそりと囁いた。
「えっ? あ、うん」
そんな僕のお願いに、ルーラは慌てて瞼を下げた。が、真ん前の彼女のそれが消えても、痛みすら感じそうな沢山の視線が僕を刺し貫いていた。
それでもまるで導かれるかの如く、僕は彼女の唇に辿り着いていた。もう二年半も昔に唯一得た感覚だが、変わらない感触が刹那に僕を『あの時』へ連れ戻していた。全身を覆う海の流れ、背中に触れる手のぬくもり、そして初めて味わった柔らかな衝撃──。
自分には長く感じられたが、数秒のことだったと思う。少しずつ離れながら、そして少しずつ目を開いたが、途端ルーラの大きな瞳とかち合って、つい驚きの表情を見せてしまった。
──え……もしかして、ずっと見てた……?
普段より一回り大きく見開かれた瞳が、僕に釘づけになっていた。小さく開かれた唇はそのままで、まるで僕と同じ表情をしている……ってことは、驚いているということ……?
「え、えと、あの……」
思わず零れ出した自分の言葉にハッとしながら、ふとルーラの背後にいるジョルジョに目線を向けた。まさか僕がそちらを見るなんて思っていなかったのだろう、船長は一瞬ぎくりとしたような様子を見せ、そして不自然な苦笑いを浮かべた。もしかして……彼女は知らなかったのではないだろうか。真の『口づけ』とは、唇と唇を合わせるものだということを。そしてあの調子ではジョルジョも教えていなかったに違いない。
「あ……」
ルーラも時が流れ出したように言葉を洩らし、胸の前で合わされた両手が口元へと上がっていった。徐々に上気する頬が赤く染められ、一秒も逸らさない美しい瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
──どうしよう……そんなにショックだったのだろうか?
目の前であたふたとし始めた僕に、動揺する余裕もないほど微塵も動かない彼女なんて、今まで初めて見るのに等しい。むしろ動揺してくれた方が、よっぽどこちらは落ち着きを取り戻せそうな気すらしてしまう。
「あ……ア、メル……」
「ご、ごめん、ルーラ、あの……」
謝ることなのか? いや、知らなかった彼女にあんなこと、やっぱり謝るべきだ。
「アメル!!」
──えっ?
突然耳をつんざくような大きな呼び声と、首に絡まる強い抱擁に、一瞬訳が分からなくなりそうだった。でも……僕の名を呼んだ彼女の声は、いつもの元気なルーラだった!
「ル、ルーラ?」
目の前に広がるヴェールの波。勢い良く上げられた眩しい笑顔。
「アメル……大好き!!」
──ええっ!?
そして再び感じるこの感触は──。
──ルーラ、もちろん、僕も大好きだよ──。
けれどそれを伝えるのはずっと後になりそうだ……この止まらない熱い口づけと、皆の喝采がやむまでは──。

◆最後までお読みいただき有難うございました!
本編を今一度顧みて、もしやルーラは「本当のキスとは何か」を知らなかったのでは? という発想から思い浮かびました作品です(笑)。結婚式の様子も少し書きたかったですし♪
この次話の【β】はこちらの続篇になりますので、時間的には式後の夜でして・・・まぁその・・・「初夜」という場面でございます(照)。残念ながら書いているのは私ですから(笑)、かなり物足りない感じに仕上がっております*
本編はあくまでも純真無垢な二人として描いてきましたので、そんな二人のそういう場面は見たくない、という方はご遠慮ください。
ルーラとアメルの結婚式♡ 果たして誓いのキスは出来るのか!?

「──では……誓いの口づけを」
厳かな雰囲気の中、落ち着いた口調でそう述べた老齢な神父に促され、僕は隣に立つルーラへと身体を向けた。
彼女もまた一足遅れで僕を正面に合わせ、ヴェールを後ろへ上げられたために顕わになった深いブルーグリーンの瞳は、少し潤んでこちらを見上げている。
周りには何十もの人達が僕らを見守っているのに、何の音すらしない。見下ろす僕の眼はおどおどとしていないだろうか。こんな状況で陸上では初となる記念すべきキスをしろだなんて、船乗りになるより難しく感じずにはいられない……。
やがて小刻みに震えそうな両拳を、一度ギュッと握り締めた。何処か自分の物とは思えずにいる見えざる力により、純白の細やかなシルクで包まれた彼女の華奢な肩へ、何とか両手を置いてみせた。
「……」
ルーラはいつになく僕を真っ直ぐ見つめていて、此処に誰もいないとしたら、その瞳に吸い込まれてしまいそうな気分だった。
いや、沢山の親族縁者がそんな僕達を見つめているのだ、こんなに戸惑っている場合ではない。
僕は意を決して彼女の唇に近付こうと顔をゆっくりと寄せたが、彼女の視線はいつまでも僕を捉えていて、伏せられることすらなかった。
「あ、あの……ルーラ、目、瞑って」
あと一歩というところで、こっそりと囁いた。
「えっ? あ、うん」
そんな僕のお願いに、ルーラは慌てて瞼を下げた。が、真ん前の彼女のそれが消えても、痛みすら感じそうな沢山の視線が僕を刺し貫いていた。
それでもまるで導かれるかの如く、僕は彼女の唇に辿り着いていた。もう二年半も昔に唯一得た感覚だが、変わらない感触が刹那に僕を『あの時』へ連れ戻していた。全身を覆う海の流れ、背中に触れる手のぬくもり、そして初めて味わった柔らかな衝撃──。
自分には長く感じられたが、数秒のことだったと思う。少しずつ離れながら、そして少しずつ目を開いたが、途端ルーラの大きな瞳とかち合って、つい驚きの表情を見せてしまった。
──え……もしかして、ずっと見てた……?
普段より一回り大きく見開かれた瞳が、僕に釘づけになっていた。小さく開かれた唇はそのままで、まるで僕と同じ表情をしている……ってことは、驚いているということ……?
「え、えと、あの……」
思わず零れ出した自分の言葉にハッとしながら、ふとルーラの背後にいるジョルジョに目線を向けた。まさか僕がそちらを見るなんて思っていなかったのだろう、船長は一瞬ぎくりとしたような様子を見せ、そして不自然な苦笑いを浮かべた。もしかして……彼女は知らなかったのではないだろうか。真の『口づけ』とは、唇と唇を合わせるものだということを。そしてあの調子ではジョルジョも教えていなかったに違いない。
「あ……」
ルーラも時が流れ出したように言葉を洩らし、胸の前で合わされた両手が口元へと上がっていった。徐々に上気する頬が赤く染められ、一秒も逸らさない美しい瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
──どうしよう……そんなにショックだったのだろうか?
目の前であたふたとし始めた僕に、動揺する余裕もないほど微塵も動かない彼女なんて、今まで初めて見るのに等しい。むしろ動揺してくれた方が、よっぽどこちらは落ち着きを取り戻せそうな気すらしてしまう。
「あ……ア、メル……」
「ご、ごめん、ルーラ、あの……」
謝ることなのか? いや、知らなかった彼女にあんなこと、やっぱり謝るべきだ。
「アメル!!」
──えっ?
突然耳をつんざくような大きな呼び声と、首に絡まる強い抱擁に、一瞬訳が分からなくなりそうだった。でも……僕の名を呼んだ彼女の声は、いつもの元気なルーラだった!
「ル、ルーラ?」
目の前に広がるヴェールの波。勢い良く上げられた眩しい笑顔。
「アメル……大好き!!」
──ええっ!?
そして再び感じるこの感触は──。
──ルーラ、もちろん、僕も大好きだよ──。
けれどそれを伝えるのはずっと後になりそうだ……この止まらない熱い口づけと、皆の喝采がやむまでは──。

◆最後までお読みいただき有難うございました!
本編を今一度顧みて、もしやルーラは「本当のキスとは何か」を知らなかったのでは? という発想から思い浮かびました作品です(笑)。結婚式の様子も少し書きたかったですし♪
この次話の【β】はこちらの続篇になりますので、時間的には式後の夜でして・・・まぁその・・・「初夜」という場面でございます(照)。残念ながら書いているのは私ですから(笑)、かなり物足りない感じに仕上がっております*
本編はあくまでも純真無垢な二人として描いてきましたので、そんな二人のそういう場面は見たくない、という方はご遠慮ください。



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