君の素顔に恋をした


「注文入りました。ブレンドコーヒーとカットアップルパイです」


カウンターに戻り声を掛けると、マスターがコーヒーの準備を始め、香織さんがアップルパイの準備を始める。


シエスタに、アップルパイは二種類有る。


今回注文されたカットアップルパイは、ホールで焼いたアップルパイをカットしてある。

焼いてから時間が経ってから注文されることが多いため、熱々ではないが、しっとりした生地と、甘さがしみこんだフィリングが合っていて、美味しい。


もう一個のホットアップルパイは、注文されたから焼き上げるため、時間がかかるけど、大きなリンゴが一つ入った四角いアップルパイは、焼きたてサクサクで、添えられたアイスが美味しい。

どちらも、喫茶シエスタの看板メニューだ。


「美羽ちゃん」


カウンターの端っこでマスターと香織さんの邪魔にならないように待機していると、香織さんに呼ばれる。


「はい」

「ちょっと、手伝って欲しいんだけど」

「何をすれば良いんですか」


香織さんに近づき、聞いてみる。

カットアップルパイは、もうショーケースから出ていてお皿に乗っている。


「粉砂糖、掛けてもらおうかなって」

「え、私がやるんですか?」


とりあえずは、ホールだけを担当すればいいと言われてたんだけど。


「うん。いつかは、美羽ちゃんにお願いする時が有ると思うから」

「分りました」


初めてのことってだけで、緊張するのに、横山くんに提供するものだと思うと、もっと緊張する!

小さな粉ふるいを持つ手が滅茶苦茶震えるけど、反対から香織さんがおさえてくれる。


「緊張しなくても大丈夫よ」


粉ふるいに粉砂糖が入れられ、私はゆっくり一カ所に固まらないようにふるう。


「ゆっくり、優しくね。は~い、ストップ」


香織さんが、手を押さえて一緒にやってくれたから、見栄えはいい。


「うん。よく出来てる。じゃあ、コーヒーと一緒に運んでね」


コーヒーとアップルパイをトレイに乗せて、横山くんの元へ運ぶ。


「失礼します。ブレンドコーヒーと、カットアップルパイ、お持ちしました」


テーブルに並べていく。

ますは、コーヒーと、ミルク。

次にアップルパイを置いて、フォークは、この位置で。


「砂糖は、そちらのをご自由にお使いください。失礼します」


お辞儀をしてテーブルを離れる。


ふう、良かった。
こぼさずできた。


「大丈夫。バッチリよ」


戻ったら、香織さんが声を掛けてくれた。


「良かったです」

「他のお客さんにもその調子でね」

「はい」