「良いじゃん。やってみようよ」
そう言ったのは、一人の男子だった。
確か、前田くん。
クラスで身長が一番高くて、彼もバスケ部に入っている。
「ただ、練習するのがつまんないのはその通りなんだからさ。楽しい方が良いじゃん」
ニカッと笑う彼に続いて、誰かが「賛成ー」って言ったことで、手を繋いでやってみる方にみんなの意思が傾いていく。
「じゃあ、自分は得意だなって人は桜木の前に、飛ぶのは苦手って人は俺の前に、一列に並んでくれ。あんまり引っかからなくても、苦手に思って居たら苦手の方で良いから」
市川くんの声掛けによって、クラスの子が別れていくが、列にならない。
隣の人と手繋ぐのは、
恥ずかしい!
って事で、男子が多い得意列は適当な感じに列になっていくが、女子が多い苦手組は、いまいち並ばない。
私も市川くんに話しをした人でもあるし、並びたくないわけじゃないけど、横山くん、得意列の前から二番目。
立間さんは得意列の後ろの方って事で、
誰か! せめて誰か一人が、並んでくれたら!
誰も並ぶ様子はないので、……しょうがない、一番前に並ぼう。
目立つから恥ずかしいけど、市川くんちょっと困っている顔しているし。
そうして、市川くんの前に行って、列の一番前に並ぼうとして、私の前を誰かが立った。
今は、後ろで一つに括っているけど、このゆるく巻いた髪は、そう。
「あ、ごめんね。一番前が良い?」
横山くんの隣の席の女子、結城さんが、こちらを気にする様に振り返った。
「あ、いやそういうわけでは」
むしろ二番目が良いし。
「じゃあ、一番前並ぶね」
彼女は、市川くんの前に立つ。
私は、彼女の後ろ、つまり二番目に並んだ。
隣を見る。
ジャージの上を脱いで白い半袖姿。
よく見える腕は、細いんじゃなくて、筋肉が付いていて、しっかりしている。
腕より上を見る。
綺麗な線の入った首、さらさらとした黒い髪。
スッと通った鼻筋。
ぱっちりとした目。
いつまでも、いつまでも見ていられるような美しい顔。
その顔が動き、ゆっくりとこっちを見て、私を認識して、笑いかける。
「飯田さんだ。よろしく」
横山くんは、今日も格好いい。



