君の素顔に恋をした


私の言葉を聞いて、市川くんは真剣に考えている。


「なるほど、怖いのはしょうがないとして、タイミングってことは、リズム感の問題?」

「そうかも。あと、単純に縄に当たると痛いし、失敗したら恥ずかしいしで、勇気が出ない。そうやって苦手な気持ちが生まれて、もっと飛べなくなるの」

「飯田、苦手って言う割には、飛べてる方だよ」

「小学校のクラスマッチで毎年やってたから」

「へー、何か、コツってあるの? 色々記事見たんだけど、高校生がやってくれるか微妙なのばっかりで」


体育委員だからって、真面目だなぁ。

正直、クラスマッチに熱が入り過ぎて怖い雰囲気になるより、今のそこまでやる気が無いくらいが良いんだけど。

どうすれば良いんだろうって、真剣に悩んでいる市川くんを見ていると、私も協力したいと思う。


「特に何か練習した記憶は無いかな」


本当に、ただ飛ぶのを繰り返していた気がする。


「あ、でも、低学年の時、高学年の人との交流で、一緒に大縄飛びすることがあったんだけど、その時、手を繋いで飛んだっけ」

「手を繋いで?」

「うん。二人だから、縄の幅は広くなるんだけど、縄に入るタイミング、飛ぶタイミング、出るタイミングは分かるようになったかも」

「なるほど」


市川くんは納得している様子だけど、これこそ高校生はやりたくないと思う。


掃き掃除が終わって、端っこにゴミを集める。

市川くんはロッカーからちりとりを出して、しゃがんで構えてくれたので、巻き上がらないようにしながらゴミをちりとりに乗せていく。


「試してみても良いかもね」

「え、本当にやるの? 手繋ぐなんて、嫌がる子多い気がするけど」

「飯田は、嫌?」


市川くんが、しゃがんだまま真っ直ぐ私を見あげた。


「え、えーと」


手を繋ぐだけなら、女子ならまあ良い。

男子は、横山くんなら……いや、横山くんが一番緊張するな。

それに、女子でもまだ話した事無い子とかだと緊張するな。

うーん。


「やるなら、いきなり、強制的にやるのが良いかも」


真っ直ぐに目に向けて答えられない内容に、市川くんは苦笑して、立ち上がった。


「嫌ってことね」

「何話せば良いか、分かんない」

「それは、人によるでしょ」