「じゃあ、誰かに「一人は大変だから手伝って」って言える?」

「……自己主張するの、苦手」


嫌な顔されたら、どうしよう。

そう考えちゃって、上手く喋れなくなる。


「俺とは普通に喋っているのに」

「それは、市川くんが喋りやすいから」


さん付けはしなくなったけど、初めて会った時から今まで、ずっと優しい喋り方をしていてくれているから、怖くない。

男子と話している時とかは、もっとぶっきらぼうな感じだから、あえてそうしていてくれるんだろう。

そういう所からも優しいって分かっているから、怖くない。


市川くんは、もう一度ため息をついた。

そして、彼は黙ったまま、持っていたカバンを教卓の上に置いて、ブレザーを脱ぐと、掃除用ロッカーの方に向かった。


「え、手伝ってくれるの?」

「一人じゃ大変でしょ」


彼はロッカーから、拭き掃除用のフロアダスターを出す。


「本当に手伝って貰って大丈夫なの? 今日、バスケ部の練習無いの?」

「無いから大丈夫」


本当かな? 
立間さん、特に今日練習無いって言って無かったけど……まだ、それを聞くくらいは仲良くなってないだけか。


それに、今の市川くんは制服姿。

本当に部活なら運動着に着替えてるか。


「飯田こそ、美術部無いの?」

「有るけど、遅れても大丈夫だから」

「それでもあまり遅れたくはないでしょ。だから手伝うよ」


本当に優しい人だな。

本来の掃除当番でも、頼まれたわけでもないのに。


「ありがとう」


私がお礼を言うと、市川くんは、少しだけ微笑んだ。


「うん」