「一人でやってるの?」
放課後、教室で掃除をしていると、廊下から市川くんに声を掛けられた。
あれ、HRが終わってすぐ教室を出て行ってたのに。
忘れ物でもしたのかな?
今、机後ろに下げちゃったから、取り出しにくい状態なんだよね。
市川くんは、教室に一歩入ったままの状態で声を掛けてくる。
「飯田、今日、当番だっけ?」
私が掃除をしている事が不思議みたい。
彼の事を気にせず掃除を続けながら話そうと思ったけど、市川くんが、ロッカーでも机でもなく、黒板の近くに居る私の元に来たので、手を止めて答える。
「用事があるって、頼まれたの」
「掃除当番四人居るよね。みんな、用事有るって?」
市川くんは、眉根を寄せて訝しんでいるみたいだった。
その様子に私は、気まずくて苦笑いする。
「うん」
いじめ……とまでは言わなくても、そういうこと考えているのかな。
「飯田は、それで良いの?」
市川くんからは、押し付けられてるよねって、言葉に出て無くても、彼の私を見つめる目がそう言っている。
「教室汚い方が嫌だし、特に用事無いし」
市川くんの聞きたい事からずれているのが分かるけど、私はそう答える。
「そういうことを聞きたいんじゃないんだけどな。飯田って、嫌ってはっきり言える?」
「掃除は、別に嫌いじゃないし」
また、市川くんの聞きたいことからずれた事を言って、彼はため息をついた。
呆れちゃったかな。



