君の素顔に恋をした


バス停近くのベンチに並んで座る。

人一人も開いていない距離で凄く近い。

横を見れば、顔も近くに有るのが分かるから、前を見る。


横山くん、足、長いなぁ。


私達の前をたまに人が通り過ぎていく。


「風吹くと寒いなー。大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」


今日は入学式で、制服以外に上着は着ていない。

春の夜だから、本当はちょっと寒いけど、横山くんも上着を羽織っていないのは同じで、困らせてしまうかもと嘘をついた。


「カラオケ、楽しかった?」

「楽しかったよ。みんな、上手だったね」

「俺、上手くないから、勢いで誤魔化しちゃった」

「凄く良かったよ」


目を瞑れば、キラキラと輝いて、楽しそうに歌っている彼が、簡単に思い出せる。


「ほんとに? ありがとう。飯田さんも一曲くらい歌えば良かったのに、歌って無かったよな?」

「……苦手なの」


なんで居たのって思われるかと言いづらかったけど、横山くんは気にした様子はない。

それどころか、こっちに笑顔を向けてくれる。


「そうなんだ。綺麗な声しているから、歌声も聞いてみたかった」


横山くんの言葉に胸が高鳴る。

また、嬉しい事を言ってくれる。


でもやっぱり恥ずかしくて、顔を見られたら赤いのが分かるから、俯いちゃう。


「……綺麗な声だなんて、初めて言われた」


小さいとか、聞き取りづらいは、よく言われるけど。


「えー、綺麗なのに。なんていうか、さらさらと流れる小川? 清流? みたいな声」

「いまいち想像つかないや」

「聞いてて、心地よいってこと」


彼が話すたび、ぱちぱちと星が生まれていくよう。

それはとっても綺麗で、楽しくて、もっと話したくなる。


「横山くんの声は、なんというかもっと喋りたくなる声」

「それは、声ってより俺の喋りじゃない?」


横山くんが困惑した声を出す。


「確かにそっちかも。なんかね、凄く楽しいの。私、普段は喋るの苦手なんだけどね、今はいっぱい喋っちゃう」


横山くんは、パチリと瞬きをした。


その驚いたような表情を見て、本当のことだけど、言ったことが、なんか恥ずかしくなってくる。


「あ、バス来た」


ちょうど良いタイミングだ。
楽しい時間ももう終わり。

逃げるように立ち上がり、バスを乗る為の列に近づく。