「なんだよ、ケチだな」
「誰がお前に見せるか」
俺はコーヒーをデスクに置くと「さ、仕事しないとな」とわざとらしく口にした。
「いつか紹介しろよ、彼女」
「は? イヤだね」
俺が即答すると繁原は「やっぱりケチだな、お前は」と自分のデスクへと戻っていく。
「じゃあ俺、接見に行ってくるわ」
「お、行ってらっしゃい」
裁判を控えている繁原は、接見に行くため足早に事務所を出ていく。
「三国さん、一番にお電話です」
「わかった。 お電話代わりました、三国です」
電話を代わると、電話越しに聞こえてきたのは「祥太か。……私だ」という声だった。
「……父さん? 父さん、なのか?」
その電話を掛けてきたのは、紛れもなく父親だった。 父さんとはあれから数年、連絡を取っていなかった。
なのに急に電話をしてくるなんて、どういう風の吹き回しだろうか……。俺のことを見放したというのに。
「祥太……母さんが、今朝方亡くなった」
父さんは電話越しに俺にそう話したのだった。
「……え?」
母さんが亡くなった……? ウソだろ……。
「明後日、母さんの葬儀を執り行う。……お前も来なさい」
「……ああ、わかった」
父さんは「場所は後でメールで送る」と電話を切った。
「母さんが……」
母さんの体調が良くないことすら、俺は知らなかった。 母さんは俺のことをずっと心配してくれていたし、俺が弁護士になった時も、母さんは「祥太、おめでとう」と喜んでくれた。



