「おはよう、三国」
「ああ、おはよう」
朝事務所に出勤すると、同僚の繁原がニヤニヤしながら俺に「なあ、あの子彼女?」と話しかけてくる。
「は?」
「ほら、昨日隣歩いてた子。 三国の彼女?」
うわ、マジかよ……。見られてたのか。
「……ああ、まあな」
よりにもよって繁原に見られてたとは……。これは最悪だ。
絶対に繁原だけには知られたくなかったんだが。
「へえ、やっぱり彼女か。だと思った」
「……ちなみに、どこで見た?」
俺が渋々そう聞くと、繁原は「歩道橋のところだけど? 二人並んで仲良さそうに歩いてたぞ」と答えた。
「……そうか」
絵梨沙の書店の近くのあの歩道橋か……。まさか見られるとは思わなかった。
事務所からは少し離れてたんだけど、これは油断したな。
「彼女かわいい系? 美人系?」
そう聞かれたので「あえてのどっちもかな」と答えると、コーヒーを淹れたマグカップを手にした繁原は「へえ?彼女はかわいくて美人なのか」とニヤニヤしながらコーヒーを飲み始める。
「……なんだよ。ニヤニヤしすぎだろ」
「だってあんなに仕事一筋だった三国に彼女だろ? なんかウケるわー」
「ウケるってなんだよ。失礼だな」
俺も繁原の後に続いてコーヒーを淹れ、席へ戻る。
「いや、だって三国は恋愛に興味ないのかと思ってたからさ」
俺のデスクに近寄ってきた繁原は「で? 彼女の写真ないのか?」と聞いてくるから「あっても見せる訳ないだろ」とコーヒーを飲んだ。



