「好きになったこと、そのものが理由……?」
どういう意味だろう……?
「そう。なんで絵梨沙のことを好きになったのかって言われたら、理由は正直に言うとわからないな。……でも一つだけ言えるのは、絵梨沙だから好きになったってことだよ」
「私、だから……?」
私だから、好きになったか……。
「そう、絵梨沙だから好きになった。 絵梨沙じゃなかったら、好きにはなってなかったと思う」
「……ありがとう、祥太くん」
祥太くんは立ち止まると、「じゃあさ、俺も聞いていい?」と私を見つめる。
「なに?」
「絵梨沙は、どうして俺のこと好きになってくれたの?」
「私は……気が付いたらいつの間にか、祥太くんのことを目で追ってたんだ。知らず知らずのうちに、目で追うようになってた。 祥太くんが教科書を貸してくれた、あの日から」
講義で使う教科書を忘れてしまった時、隣に座ってた祥太くんが「忘れちゃったの? じゃあ、一緒に見る?」と教科書を貸してくれたことがきっかけで、気が付いたら祥太くんのことを目で追うようになっていた。
それが恋だと気が付いたのは、少ししてからだった。 目で追い続けていた祥太くんと恋人になることを、当時の私はきっと思ってなかったはずだ。
「教科書か。……あったな、そんなこと」
「うん。初めて目で追う存在になったのが、祥太くんで良かったって今なら思えるよ」
懐かしい思い出に浸っているうちに、駅に到着してしまったようだ。



