「そうですね。正直、はじめは少し怖いなって思ってたんですけど……桐野江家の皆さんは優しくて、居心地もよくて。毎日楽しいです」
「……千夏子ちゃんってさ、本当に純粋な子だよね」
「え?」
(俺は、恋愛できる相手を選び放題だねって、ちょっぴり皮肉も込めて言ったつもりだったんだけど……全然伝わってないみたいだな)
尊さんは、困り顔で眉を下げた。
「千夏子ちゃんを攻略するのは、中々難しそうだね」
「勝つ? 今、何か勝負事なんてしてましたか?」
尊さんが何の話をしているのか分からなくて、首を傾げる。
だけど結局その話ははぐらかされてしまったので、言葉の意味も、尊さんの困り顔の理由も、何一つ分からないままだった。



