「あ、バッグ……その、ありがとうございます。でも、この手は一体?」
「せっかくのデートでしょ? もう少しデートらしいことしたいなって思ってさ。ということで、これから俺が千夏子ちゃんの服を選んでもいい?」
「え? 一色さんがですか?」
「うん。料理とか掃除とか、日々の家事を頑張ってくれてるお礼も兼ねてさ。プレゼントさせてよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……ありがとうございます」
素直に頷けば、一色さんは嬉しそうに微笑む。
「それからさ、俺のことも名前で呼んでよ」
「え、いいんですか?」
「うん」
「それじゃあ、尊さんって呼ばせてもらいますね。……でも私、よく考えたら、デートをするのってはじめてかもしれません」
「そうなの? 千夏子ちゃん可愛いし、中学の時とかお付き合いしてる子もいたのかと思ってたけど」
「いえ、全然いませんでしたよ。それに家のことをしなくちゃいけないっていうのもありましたから、恋とかしてる余裕もなかったです」
「そっか。……それじゃあ桐野江家にきたのは、千夏子ちゃんにとってはすごく良かったんじゃない?」
口許を緩ませて笑った尊さんは、スッと目を細めて私を見ている。



