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大きな日本家屋を見上げて、深呼吸を一つ。
玄関前にあるチャイムを押せば、中から出てきたのは、黒服にサングラスをかけた強面のお兄さんだった。
「あの、はじめまして。来栖千夏子です」
「お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」
内心ビクビクしながらお兄さんの後に付いていけば、通されたのは広い客室だった。
和室の真ん中には長机が置かれていて、机を囲うようにして、座布団が十枚ほど敷かれている。
まだ誰も来ていないところを見ると、どうやら私が一番乗りだったらしい。
「どうぞ。お時間まで今しばらくお待ちください」
「あ、はい。ありがとうございます」
一礼したお兄さんは、部屋を出ていってしまった。
勧められた座布団の上に腰を下ろして、ふぅっと深呼吸を一つ。
ラフな格好でかまわないと言われたから、普通に私服で来ちゃったけど……大丈夫だよね?
まぁ着物なんて買うお金、今のウチにはないんだけどさ。



