「千夏子ってば、聞いてるの?」
「はいはい、聞いてますよ」
「俺のおべんとうって、むぐっ」
慎くんの口許をあわててふさいで、小声で伝える。
「慎くんのお弁当は、朝家で渡してるでしょ!」
おにぎりを渡した日の夜。
何故か慎くんから、またおにぎりを作ってほしいと頼まれた。
学校で小腹が空いた時に食べる用らしい。
だけどおにぎりだけでは味気ないかと思い、お弁当を用意しようかと提案したのだ。
そしてその流れで、他の面々にもお弁当を作ることになってしまい、今では毎朝六人分のお弁当を準備している。
食堂で食べるなど必要がない時には、事前に教えてもらうことになっている。
だけど慎くんは、周囲の目なんて全く気にせずに「俺のお弁当ちょうだい」とか言ってくるものだから、ひやひやしてしまう。
私が校内でお弁当を手渡す姿なんて見られちゃったら、それこそ大問題だ。
ただのクラスメイトや友人が、手作りのお弁当を渡すシチュエーションなんて早々ないからね。
変に勘違いされたら困るから、バレないようにお弁当は絶対に家で渡すように徹底しているってわけだ。



