「千夏子さん、準備はできましたか?」
部屋の外から声が掛けられた。玲くんの声だ。
お父さんとの電話が思ったよりも長くなっちゃったから、心配して呼びにきてくれたのかもしれない。
「うん、もうばっちりだよ。お待たせ、玲くん」
「いえいえ。制服、すごく似合ってますね」
「ありがとう」
私が着ている制服は黒のブレザーで、プリーツスカートはチェック柄だ。胸元には臙脂色のリボンを結んでいる。
男子はネクタイになるみたいだ。
「中等部は、ネクタイが緑色なんだね」
「はい。俺もあと一年早く生まれていたら、千夏子さんと一緒の校舎に通えたんですけどね」
玲くんは、不満そうに唇を尖らせている。
――実は私は、本来通うはずだった公立の高校ではなく、桐野江家の五人が通っている、私立の中高一貫校に入学することになった。
急に決まったことだし、当然入試だって受けてはいないんだけど……多分、桐野江家の裏の力か何かで、私を無理矢理入学させたんじゃないかなって思うんだ。
ないとは思うけど、理由を聞いたことで大金を支払え、なんて言われたら怖いので、あえて真相を聞くことはしないけど。



