「お金のためとはいえ、やっぱりリアルのゲームなんてメンドクサイなって思ってたんだけど……ちょっとは本気出してみてもいいかも?」
桐野江さんが何か呟いたけど、小さすぎてよく聞こえない。
「ゲームって言いました? 桐野江さんの好きなゲームの話ですか?」
「んー、まぁそんなところー」
桐野江さんは緩い声で曖昧な返しをしてきたかと思えば、突然私の左手を握ってきた。
「え、っと、この手は一体……?」
「また面倒なのに絡まれても嫌だし、アンタ小っちゃくて、すぐ見失いそうだから」
「いや、桐野江さんに比べれば、大体の女性が小さいと思いますけど」
「まぁ細かいことはどうでもいいじゃん。あとその桐野江さんっての止めてよ。慎でいいし、敬語もいらないから」
綺麗な満月が輝く夜空の下、桐野江さん――改め慎くんと、そのまま手をつないで帰ることになった。
出迎えてくれた玲くんには、慎くんとばかり仲良くしていてズルいと拗ねられ、一哉くんは顔を赤く染めて声を荒げて、その声を聞きつけてやってきた由紀さんには揶揄われ、一色さんはニコニコ何を考えているのか分からない笑顔で成り行きを見守っていて――こんな風に玄関先で騒いでしまったことで、若頭の杉下さんから「オマエら、今何時だと思ってんだ!」と、皆そろって仲良くお説教を受けることになってしまったのでした。



