「っていうか、何で会って早々に絡まれてるわけ?」
「え? えーっと、すみません」
「もー早く帰ろ。眠い」
欠伸を漏らした桐野江さんが歩き出したから、私も慌ててその後を追いかけて、隣に並ばせてもらう。
すると、後ろからおじさんの囃し立てるような声が聞こえてきた。
しつこいなぁと思っていれば、ピタリと足を止めた桐野江さんが、おじさんの方に振り返る。
「ウザい。いい加減、黙ってくんない?」
「ひっ……」
桐野江さんの発した低い声に続いて、おじさんの小さな悲鳴らしき声が耳に届く。
私も後ろに振り返れば、さっきのおじさんが覚束ない足取りで走り去っていく後ろ姿が見えた。
……桐野江さん、一体どんな表情をしていたんだろう?
隣を見上げてみたけど、そこにあるのは、いつも通りの気だるげな無表情だった。



