「つーか、院瀬見さんとかむずがゆい呼び方すんな」
「え、それじゃあ何とお呼びすれば……」
「……一哉でいい。つーかタメでいい。敬語とかダリぃから」
院瀬見さん――改め一哉くんは、どこか照れ臭そうに後頭部を掻きながらそう言うと、冷えて硬くなったガムを服から剥がしてゴミ箱に捨て、脱衣所を出ていってしまった。
(一哉くん、怖そうな人かと思ってたけど……思ったよりずっと話しやすかったな。ほんの少しは仲良くなれた気がする)
私は、脱衣所の鏡に映った自分が、緩んだ顔をしていることに気づいた。
***
「来栖千夏子ちゃん、かぁ」
千夏子と一哉のやりとりを陰で見ていた一色尊は、ふむ、と考えるような仕草で顎に手を添えてみせた。
「お兄さんが、ちょーっと遊んであげようかな」
そう言って楽しそうに笑いながら、その場を後にした。



