「っ、あの。久美さん」
足を止めて、久美さんの名前を呼ぶ。
このまま別れるのは、わだかまりが残るような気がして嫌だなって思ったから。
「確かに私は、借金のことがなかったら、こうして由紀さんたちと関わることはなかったと思います。でも今は、由紀さんと、皆さんと一緒に過ごす時間が……純粋に楽しいんです」
「えぇ、千夏子ちゃんってばそんなに俺らのことが…「ちょっと黙っとけ」
「なので、久美さんと由紀さんの仲を引き裂いてやろうとか、そんなこと考えてませんでした。それは、分かってもらえたら嬉しいです」
今の私の思いを、正直に伝える。
私の話を黙って聞いてくれた久美さんは「……もう、分かったわよ」と、苦い顔つきでため息を漏らした。
「何だか一気に冷めたわ。もうあなたたちに手を出したりしないから、安心してちょうだい」
そう言う久美さんに小さく頭を下げて、私は由紀さんたちと一緒にカラオケボックスを後にした。
「悪い男には惹かれるけど、これ以上関わって痛い目に遭うのはごめんだわ。……あの子も、ヤバい奴らに捕まっちゃって、災難ね」
――最後に久美さんが呟いていた言葉を、私が耳にすることはなかった。



